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芳醇な香りと淡く優しい色合いが特徴の新しいタイプのイチゴ新品種「桃薫(とうくん)」

2010年12月07日

 芳香性がある種間雑種品種では、栽培イチゴ「とよのか」に、モモに似た香りを持つ野生種(Fragaria nilgerrensis)を交配した、「久留米IH1号」が育成されていました。
 「久留米IH1号」は、「もも香」、「ピーチベリー」などの商品名(商標)で家庭園芸用に苗が販売されていましたが、種子が果実表面よりも深く落ち込み艶が劣るなど、外観に欠点があり、収量性も劣っていることから、一般の店頭に並ぶことはほとんどありませんでした。
 そこで、果実の外観と収量性の改良に取り組みました。


「桃薫」育成の経過
 果実の外観が良く栽培しやすいイチゴ品種「カレンベリー」に野生種(F. nilgerrensis)を交配して、新しい種間雑種イチゴを作りました。これに「久留米IH1号」を交配し、その後代から、収量が多く、果実の外観が優れ、香りの良い系統を選抜しました。
 「モモ(桃)」に似て甘く芳醇な香りが隅々まで漂う(「薫る」)様子をイメージし、各地に広く普及し、香り高い果実を多くの消費者へ届けられることを願って「桃薫」と命名しました。


「桃薫」の育成系統図


「桃薫」の特性

●「桃薫」にはフルーティーなモモやココナッツに似た香り、甘いカラメルのような特徴的な香りの成分が多く含まれ、今までのイチゴとはまったく異なる風味を楽しめます。


「桃薫」の主要な香り成分の分析結果 

モモ様 :γ-decalactone、δ-decalactone、γ-dodecalactone、δ- dodecalactoneの合計
ココナッツ様 :γ-hexalactone、δ- hexalactone、γ-octalactone、δ-octalactoneの合計
カラメル様  :2,5-dimethyl-4-methoxy-2H-furan-3-oneと2,5-dimethyl-4-hydroxy-2H-furan-3-oneの合計


●果実には艶があり、淡黄橙色の優しい色合いとなり、短円錐形の果実であることから、他のイチゴ品種との差別化が容易となります。


「桃薫」の果実


●「桃薫」の生育は旺盛で、促成栽培における各果房の始めの果実は大果となりますが、花数が多いので最後の方の果実は小さくなります。


「桃薫」の草姿


●花芽分化時期は10月上旬で非常に晩生です。クリスマスシーズンにたくさん採ることは困難ですが、春までの全期間の収量は多くなります。


「桃薫」の収量および果実特性

三重県津市における促成栽培による2008年12月から2009年4月までの成績


「桃薫」栽培のポイントと今後の期待
●「桃薫」のランナー発生は旺盛で、増殖は容易です。炭疽病抵抗性を持たないため、管理を徹底します。
●年内収穫を目指すためには、8月上旬からの花芽分化処理(短日夜冷処理など)が必要です。
●果数が多いことから、果房当たり11果程度に摘果をします。小果であっても香りなどの特徴は生かせるため、目的によって摘果程度を加減します。
●果皮色が薄いため判断が難しいですが、果実全体が淡く着色した時期が収穫適期です。未熟では芳香性の特徴が発揮されず、また食味も劣ります。過熟では輸送時に品質が落ちるため、適期収穫を心がけます。
●「桃薫」は、他のイチゴ品種との区別性を活かし、地域特産品用、贈答用、業務用、観光農園および家庭園芸用などへの利用が期待されます。



差別化が期待される「桃薫」の果実

●「桃薫」の苗は、2010年秋より民間種苗会社から販売されています。


執筆者
農業・食品産業技術総合研究機構 野菜茶業研究所 野菜育種研究チーム
野口裕司 

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