水稲の薬剤抵抗性害虫の最新動向と対策
薬剤抵抗性とは
●同じ殺虫剤を使い続けると、生き残る虫が増えてきて、その殺虫剤で防除ができなくなることがあります。
●これを害虫に薬剤抵抗性がついた、あるいは薬剤抵抗性が発達した、と言います。
●薬剤抵抗性が発達するしくみは、害虫集団の中にもともと薬剤に遺伝的に強い個体がいて、薬剤を使い続けることで強い個体が選抜され、集団全体として薬剤に強くなってしまって起こります。
主な水稲害虫の種類と発生様相
●水稲栽培で問題となる害虫は、イネの生育時期に伴って変化します。
●初~中期には、イネミズゾウムシやイネドロオイムシなどが発生します。
●中~後期には、セジロウンカやコブノメイガなどが発生します。
●収穫期に近くなると、斑点米カメムシ類やトビイロウンカなどが問題になります。
●ヒメトビウンカは、イネ縞葉枯病という病気をうつすことで問題になります。
左上 :ヒメトビウンカの雌成虫/
右下 :ヒメトビウンカの雄成虫
イネ縞葉枯病の症状
●主な害虫の種類は地域によって違い、西日本では海外飛来性のウンカ類やコブノメイガが、東日本や北日本ではイネミズゾウムシやイネドロオイムシが問題となります。
●斑点米カメムシ類は地域によって問題となる種類が異なり、北日本などではカスミカメ類が、西日本ではクモヘリカメムシなどが問題になります。
●斑点米カメムシ類の注意報・警報の数(以下、発令件数)は年によって変化しており、発生量の年次変動が大きいことがわかります。
図1 斑点米カメムシ類とウンカ類の注意報・警報の発令件数の推移
●トビイロウンカの発令件数は2005年以降に増えていますが、これは殺虫剤抵抗性の発達と関係しています。
●ヒメトビウンカの発令件数は2000年代後半から増えていますが、これは関東から九州にかけてイネ縞葉枯病が増加傾向にあるためです。
薬剤抵抗性の発達状況
●水稲で薬剤抵抗性の発達が最近特に問題になっている害虫は、斑点米カメムシ類、ウンカ類、イネドロオイムシなどです。
●斑点米カメムシ類は、種によって薬剤の効果が異なるため、注意を要します。北陸などでは、アカヒゲホソミドリカスミカメに抵抗性がついていることがわかっています。
●ウンカ類については、薬剤抵抗性の状況が種類によって異なっています。
●トビイロウンカは、イミダクロプリド(商品名:アドマイヤー)に抵抗性を発達させています。
●セジロウンカは、フィプロニル(商品名:プリンス)に抵抗性を発達させています。
●ヒメトビウンカの薬剤抵抗性は地域によって異なり、九州などの西日本ではフィプロニルとイミダクロプリドの両方に抵抗性を発達させています。
●関東地域などでは、ヒメトビウンカはフィプロニルに抵抗性を発達させています。
●以上のように、ウンカ類はこれまでは一括で防除できていたのですが、今後はどの種類を主な防除対象とするかによって使う薬剤が変わってきます。
●イネドロオイムシでは、最近北海道でもフィプロニル抵抗性の集団が見つかっているので要注意です。
薬剤使用上の注意点
●箱施用剤の利点は、①効果が長く続く、②病虫害の同時防除が可能、③省力的、④周囲への飛散が少ない、などがあります。
●北日本などで初~中期の害虫が常に発生する地域や、西日本などでウンカ類が毎年多飛来する地域では、箱施用剤が効果的です。
●箱施用剤を使う際には、散布時期と使用量の注意書きを守る必要があります(図2)。
●使用量を規定量より少なくすると、効果が短くなるばかりか、かえって薬剤抵抗性の発達を早めることもあります。
●規定量を超えると薬害が起こる場合があるので、注意が必要です。
●本田散布剤を使う時には、対象の害虫に農薬登録があるかどうかラベルで良く確認しましょう(図2)。
●病害虫防除所や普及指導員から防除の適期の情報を入手して、殺虫剤を散布しましょう。
●農薬散布時には使用法・回数を守るとともに、周辺に飛散しないように注意しましょう。
図2 農薬ラベルの例
執筆者
松村正哉
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センター 上席研究員
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