スマート農業実証プロジェクト令和3年度実証の紹介(ふくおか遠藤農産:福岡県鞍手町)
2021年08月03日
1.コンソーシアム名:
ふくおか遠藤農産スマート農業実証コンソーシアム
2.実証課題名:
麦・大豆の品質向上と既存機械やシェアリングを活用した土地利用型大規模経営での実践型スマート農業技術体系の実証
3.実施場所:
福岡県鞍手町
4.構成員と役割:
5.実証品目
麦類(18ha)、大豆(34ha)、水稲(32ha)
6.背景とねらい
福岡県における土地利用型大規模経営では、麦・大豆に水稲を組み入れた2年4作による農地のフル活用を図っており、それぞれの作物において圃場準備、播種、中間管理、収穫、次作の準備など、切れ目ない適期作業の実施が必要な状況にある。
生産面の課題として、麦では経営規模の拡大に伴う播種の遅れや、湿害などによる収量低下、赤かび病(カビ毒)の発生とタンパク質含有率の不安定化、大豆では播種遅れなどによる収量の低下、水稲では登熟期の高温による品質の低下が大きな課題となっている。
経営面ではコスト削減が必要であり、農地中間管理事業等の活用により農地集積を進め、さらなる経営規模の拡大を図る必要がある。
実証を担当する株式会社遠藤農産は、地域の重要な担い手として雇用の導入による規模拡大を進めてきた。圃場は旧産炭地の鉱害復旧田で、一筆当たりの圃場面積が小さく、排水不良田も多い条件不利地である。このため、畦畔除去による圃場の大区画化や排水対策等の実施により圃場条件の改善を図り、作業の効率化と高収量化を目指す必要がある。
これらの課題を解決するために、最新のスマート農業機械と既存機械を活用した低コストで実現可能な一貫作業体系を構築するとともに、作業技術の省力化を図り、過疎化が進む条件不利地での普及促進を目指す。
7.令和2年度の主な成果
(1)スマート農業機械による一貫作業体系の実証
①大豆・麦での実証
大豆の実証では、既存トラクタに自動操舵システムを用いた播種作業、防除ドローンによる病害虫防除作業、普通型ロボットコンバインによる収穫作業により、労働時間を地域慣行に比べ15%削減できた。
自動操舵システムを活用することで、熟練者以外の従業員でも高精度な機械作業が実施できることを確認できた。
普通型ロボットコンバインで自動運転する場合、枕刈りが6周(うち3周は自動運転)必要で、大区画(おおむね50a以上)圃場でないと効率的な作業ができないことがわかった。
大豆作では中耕・培土により畦溝が深くなり、畦を横切る収穫方法では、泥の混入による汚粒の発生と収穫ロスが懸念される。
普通型ロボットコンバインの作業に合わせた播種や栽培方法の検討も必要と思われる。
麦の実証では、食味・収量コンバインによる収穫作業、無人ロボットトラクタによる耕起作業、既存トラクタに自動操舵システムを用いた播種作業を実証した。
トプコン社製自動操舵システムX35と麦播種機を装着した既存のトラクター(クボタGRANDOM90)
食味・収量コンバインと営農管理システムの連携により、圃場ごとの収量やタンパク質含有率が確認でき、次作の栽培管理に活用できる。
無人ロボットトラクタでの耕起は、高精度作業とともに無人による省力効果が確認できた。
無人ロボットトラクター(クボタMR1000A)による耕起作業の様子。多くの参加者が熱心に見入っていた
今後、ドローンによるセンシング及び赤かび病防除、普通型ロボットコンバインによる収穫作業を計画している。
②通信方式の実証
通信方式は、RTK(Ntrip)方式とVRS方式を比較し、実証圃場では通信状態及び作業精度に差がないことを確認した。コストは、既存のRTK基地局を利用したことで、VRS方式に比べRTK(Ntrip)方式の方が低かった。実証地域ではRTK(Ntrip)方式の方が実用性は高いが、今後、県内での普及性を考えると、基地局設置の必要がないVRS方式の検討も必要と思われる。
8.令和3年度の実証項目
(1)スマート農業機械による一貫体系の実証
①大豆での実証
大豆栽培ほ場で、無人ロボットトラクタと自動操舵システムを組み込んだ既存トラクタでの耕起、播種の協調作業、自動操舵システムを組み込んだ既存トラクタによる中耕・培土作業、ドローンによるセンシングを活用したハスモンヨトウの発生状況把握及び防除、ロボットコンバインでの収穫作業の導入効果を一貫体系で実証する。データは、営農・栽培管理システム「KSAS」で管理する。
また、令和2年度に実証したデータを基に作業体系を見直し、無人ロボットコンバインによる収穫がよりスムーズに実施できるよう、播種幅や栽培様式を工夫することで、より効率的な一貫体系の構築を目指す。
②麦での実証
麦栽培ほ場で、前年度にセンシングした葉色データを活用し、穂揃期追肥と赤かび病防除を実施、既存の食味・収量コンバイン及びロボットコンバインを活用して収穫作業を行い、ほ場毎の収量やタンパク質含有率を把握し、秋播きの施肥に活用する。無人ロボットトラクタとブロードキャスターによる土壌改良資材の均一散布、無人ロボットトラクタと自動操舵システムを組み込んだ既存トラクタでの耕起、播種の協調作業、自動操舵システムを組み込んだ既存トラクタによる踏圧作業、の導入効果を一貫体系で実証する。データは、営農・栽培管理システム「KSAS」で管理する。
③水稲での実証
水稲栽培ほ場で、無人ロボットトラクタによる耕起作業、無人ロボット田植機による精密な移植及び施肥作業、ドローンでの防除効果、食味・収量コンバインでの収穫までを一貫体系で実証する。データは、営農・栽培管理システム「KSAS」で管理する。
大豆・麦・水稲での効率的な作業で確保できる労働力を規模拡大に繋げ、経営費の削減による経営改善効果を実証。
(2)シェアリングの実証
●令和2年度に行った実証結果をもとに、作業計画や栽培管理等の見直しを行う。シェアリングを実施する2つの経営体でオペレーター及び補助員を分担することで、個々に作業を実施するよりも作業時間を削減する。防除用ドローンについては、水稲・大豆に加え麦でも実証する。ロボットコンバインでの収穫作業は、前年に引き続き大豆で実証する。このことで、「シェアリングの実証」による生産コスト低減効果をさらに向上させる。
9.農研機構スマート農業実証プロジェクトの紹介ページ
▼(株)遠藤農産ほか(福岡県鞍手町)(農研機構サイト)