「果樹新品種マッチングセミナー」果樹消費拡大のためには何が必要かを検討
2019年12月20日
農研機構果樹茶業研究部門が主催した「果樹新品種マッチングセミナー」が12月2日に東京都台東区で開催され、研究者、実需者、生産者、中間業者、消費者等約70名が参加し、それぞれの立場から国産果実の消費拡大を考えた。
●セミナー1:「農研機構における新品種開発の取り組み」
果樹の栽培面積や生産量は、生産者の減少や高齢化により減少の一途をたどっている。一方の消費は、若い世代ほど果物消費が少ない。食べやすい新品種や加工技術の開発、また、野菜のように、果樹も加工・業務用需要を増やすことが必要。機能性表示を前面に出したり、輸出に力を入れることも有望だ。
農研機構では、以前から品種育成を行っている。リンゴ「ふじ」はその代表例だ。育成の途中で系統適応性検定試験を行う際に、都道府県試験場にて、地域適応性を評価して地域にあった品種を選んでいる。現在では「おいしさ」「食べやすさ」「栽培しやすさ」「出荷期間拡大」「気候変動対応」「健康機能性」「加工・業務用適性」などを考慮して、育種を進めている。最近はDNAマーカーによる効率化(※)もはかってきた。
※ DNAマーカーにより、耐病性や「甘ガキ」などの特徴を持った品種の作出を容易にする
次に、農研機構が育成した一押しの新品種が、以下の通り紹介された。
・カンキツ「みはや」
・カンキツ「あすみ」
・リンゴ温暖化対応品種「錦秋」
・リンゴ赤肉品種「ローズパール」
・ブドウ「クイーンニーナ」
・ブドウ「グロースクローネ」
・ナシ「甘太(かんた)」
・カキ「太豊(たいほう)」
・モモ「さくひめ」
・クリ「ぽろたん」「ぽろすけ」
・レモン(ハイブリッド)「璃の香(りのか)」
・ウメ「露茜(つゆあかね)」
●セミナー2:「熊本県におけるカンキツ「みはや」の取り組み」
2年前まで6年間在籍していた熊本県果樹研究所で、「みはや」の育成(試験)に携わった。
熊本県は県北部が温州みかん、南部が中晩柑の産地。年内収穫・出荷の「みはや」を中晩柑産地に導入すれば労力の分散や収益の増大が期待できた。そこで、露地栽培「不知火」(デコポン)の不良園地での更新品種として、「みはや」が県の推奨品種となった。
国の事業(2013~15年、16~18年)を活用し、高品質な安定生産の栽培法と出荷時期拡大のための貯蔵方法を検討し、糖度13度以上で大きく、紅が濃い果実を栽培する技術を確立した。
熊本県内での「みはや」導入の状況は、7ha・12t(2017年)。山鹿市および芦北町田浦地区が主な産地で、シートマルチ栽培を実施するとともに、排水性を重視した園地づくりにより、高糖度果実生産を行っている。
●セミナー3:「果実の消費動向と消費拡大の取り組み」
久保直子氏(株式会社新宿高野 広報・カルチャーマネージャー・フルーツコーディネーター)
果物の需要は減少傾向かもしれないが、人気は上がっている。みかんやリンゴなどの消費減少に対し、果物を使った加工品の需要は増えていて、デザートとしての果物への期待や意欲は高いと感じている。
新宿高野の、果物の1番人気は『モモ』。年齢を問わず好まれ、2000円近くするパフェもよく売れる。2番は『イチゴ』。「あまおう」が火付け役になり、各地の独自品種が出て、イチゴの力をますます感じている。3番目は『マンゴー』。国産品の登場で人気が出た。マンゴーをみていると、売り方や情報発信の仕方で売れることがよくわかる。
これから有望な果物は、一番が『イチジク』。いろいろな品種がでて選択の幅が広がった。甘すぎず、健康的で美容にも良い。サラダやオードブルにも使えるところが人気の元だろう。2番手はトロピカルフルーツの『パッションフルーツ』『ドラゴンフルーツ』。国産品がそれまでのイメージを一新し、見た目の美しさ、果汁の多さ、完熟でフレッシュ感が高いなどが評価されている。3番目は『ナシ』。和ナシ、西洋ナシそれぞれの特徴を消費者がようやく分かってきた。食べ頃や品種も浸透してきたか。甘くて軟らかい品種から、今は、硬い二十世紀などが見直され好まれている。4番目は『大粒ブドウ』。タネなし、皮むき不要がブドウ人気に火を付けた。今後も売れるだろう。
最近注目されている果物の食べ方に、「パワーサラダ®」(キユーピーが商標登録を取得)がある。果物、野菜、タンパク質を合わせたバランスの取れたサラダで、栄養が取れ簡単に作れるランチとしてアメリカで流行したもの。果物は肉やシーフードとの相性が良く、ドレッシングに果物をつぶして入れてもよし、トッピングとしてもきれいだ。新宿高野では、パワーサラダをデリカショップでグラム売りをしているが、好評だ。
また、紅茶に柑橘系の果物を加えると相性が良く、生の果物を入れた紅茶が人気。お酒とフルーツの組み合わせも同様で、メニューの幅が広がると注目されている。香酸カンキツのユズやカボスなどはゼリー、チョコレートと合わせたムース、パフェなどにも使われている。ナシやカキにカボスを絞ってかけるのも良く、今後の展開に期待している。
これらは、果物単体ではなく、メニューの中で他の食品との組み合わせにより需要が拡大しているところが、従来にはない点だ。
果物の魅力をどのように発信していくか。消費者は私たちには当たり前の生産過程などを分かっていない。おいしく食べる情報(食べ頃、保存、栄養健康美容の情報など)も意外に知らない。産地や試験場、JAなどからの情報も、かみくだいてわかりやすくして、消費者に直接発信したらどうか。
●交流タイム(果実の試食等)
カンキツ「みはや」「りのか」、ナシ「甘太」、リンゴ「ローズパール」、クリ「ぽろたん」の試食(試飲)があった。リンゴ「錦秋」は展示のみ。
その後の意見交換では、
・いわゆるB級品、C級品の実需者とのマッチングの可能性はないか
・野菜のように、加工業務用専用栽培の可能性はないか
・品種開発が高級フルーツに向かっているように感じるが、原点に帰って、消費者が求めるものは何かを考える時期に来ていないか
等の問題が提起され、時間いっぱい討議が進められた。(みんなの農業広場事務局)