家族農業における女性の経営参画の道すじを考える
2014年07月17日
― 十文字学園女子大学国際シンポジウム「食と農を担う女性たち」より ―
農業経営の中で女性が占める役割が年々大きくなっている。その方向や早さには違いはあっても、女性の果たす役割の大きさと経営参画実現は、世界共通の普遍的課題と言えるだろう。
オーストリアとスイスの研究者の来日に合わせて、国際家族農業年に関連したテーマを設定したシンポジウムが7月12日、さいたま市の埼玉県男女共同参画推進センター(WithYouさいたま)で開かれた。
コーディネーターは大友由紀子氏、宮城道子氏(いずれも十文字学園女子大学)、基調講演をムブリ・チャールズ・ボリコ氏(FAO日本事務所所長)、パネリストは、テレジア・エデル=ヴィーザー氏(オーストリア)、ルート・ロッシーエ氏(スイス)、萩原知美氏(ファーム・インさぎ山)、安倍澄子氏(日本女子大学)の4名。
基調講演でボリコ氏は、「途上国人口の7割が農村にあり、収入源は農業が圧倒的に多く、小規模家族農業が大半。途上国の女性は教育、情報、土地、農業の手段、融資等を得る機会が男性より少ない(不利な)状況なので、Win-Win-の関係になるような支援が必要だ」と述べた。
オーストリアは国土の7割が山間地・条件不利地。EU加盟国中でも、小規模な農業が行われている。伝統的に男性を経営主とする兼業農家が多い。一方、高学歴化で女性が外の仕事を求めるようになり、社会保障制度・年金制度による保障もあるため女性経営主の割合が増え、今や全体の35%になった。農業女性の教育プログラムやトレーニングの提供が始まったところで、まだ少ない女性リーダーの育成を期待している。
左から
テレジア・エデル=ヴィーザー氏、ルート・ロッシーエ氏、ムブリ・チャールズ・ボリコ氏
スイスでは逆に専業農家が大半を占め、女性は経営主のパートナーという立場がほとんど。20ha平均の179家族農場を調査(農業者のパートナー女性対象)したところ、40年前と比べて家事と農作業の時間が減り、農場管理的(書類作成等)な仕事の割合が増えていた。また農業生産教育を受けた女性は農作業が、それ以外の教育を受けた女性は農外活動が多いという結果だった。ただし、担っているものの大きさに対し、女性の働きが正当に評価されているとは言えない。
萩原知美氏は、首都圏30km圏内で農業体験提供を始めた先駆者。
17年目をむかえる地産地消活動(食育講座、学校給食や直売所への野菜の納品)、小中学校や学生・社会人の農業体験受け入れを通じて、子供や若者が確実に変わる、成長することを実感してきた。農業の可能性は無限大であり、地域資源を守り、文化を継承していきたいと話した。
安倍澄子氏は、農山漁村の男女共同参画の現状と施策の推進方向を報告。
女性起業や家族経営協定締結が進んだことで、女性の働きが目に見えるようになった。働きが正当に評価され、経営の中で居場所ができたことは喜ばしいが、自分が納得できる働き方、生き方を選べ、実現できるようになればもっと良い。女性農業者の全国ネットワークにも期待したいと結んだ。
総合討議のあとに、「教育は、とても大切。与えられた教育を受けるだけでなく、自ら自分の受けたい教育を選ぶ女性もみられる」「家族のためだけでなく、社会的責任も担い、自覚しながら働く女性が増えている」「女性が経営参画することで、農業のイメージが大きく変わろうとしているようだ」「消費者にも伝えていきたい」など、さまざまな意見・感想が述べられ、次世代を担う人材が育ちつつあることを実感した。
閉会後、さいたま市女性農業者連絡会メンバー心づくしの手料理を囲んで、交流会が開かれ盛り上がった。(みんなの農業広場事務局)