シンポジウム 「地球温暖化と向き合う農業生産技術」開催される
2010年11月17日
福岡市のアクロス福岡で10月26日、農研機構九州沖縄農業研究センター主催の「地球温暖化と向き合う農業生産技術」シンポジウムが開催された。
開催にあたり、九州沖縄農業研究センターの井邊時雄所長によるあいさつがあった。
「九州沖縄地域は、最前線という意識を持って温暖化に取り組んできた。暖地温暖化研究チームは5年前に結成され、今年が最終年となる。近年北陸あたりまで稲の品質劣化が現れるなど、全国的に研究の重要性が増している。特に今年は猛暑による米品質の低下が問題となっているが、温暖化の影響を克服するまでには至っていない。これまでの研究成果を踏まえ、さらに実用的な技術として確立していかなければいけない。今日の議論を踏まえ、完全克服まで取り組んでいきたい」
肱岡靖明氏(独立行政法人国立環境研究所 社会環境システム研究領域 統合評価研究室)による基調講演「温暖化が日本に及ぼす影響」では、ICPP第4次報告に沿って説明が行われた。
「緩和策はこれまでも取り上げられてきたが、適応策についてはなかなか議論されて来ておらず、いまはじまったばかり。だが、研究はすでに始まっており、大きなプロジェクトが進められている。今後は、緩和策と適応策をうまく組み合わせていく必要がある。温暖化は一気に進むわけではないので、あわてる必要はないが、備えは必要。温暖化に関する知見はこれからどんどん出てくる。また、眠っているものもある。これまでに経験した大冷害や猛暑で培った知恵や技術を体系化し、共有化することが今後の備えとなる」
つづくパネルディスカッションでは、「家畜生産と温暖化」と「米生産と温暖化」の2テーマについて、研究者による発表と質疑が行われた。
「家畜生産と温暖化」座長の田中正仁氏(農研機構九州沖縄農業研究センター暖地温暖化研究チーム)は、
「温暖化は重要なウエイトを占める研究。家畜生産以外の分野とも連携を取りながら、生産の安定確保をはかっていかなければならないと感じた。この5年間の研究でやっと糸口が見つかり、どのように切り込んだらよいかの目途が立った段階だと思う。来期以降も研究を進めていきたい」
「米生産と温暖化」座長の森田敏氏(農研機構九州沖縄農業研究センター暖地温暖化研究チーム)は、
「毎年のように変動している状況での稲づくりは今までにないこと。過去の知見を大事にする一方で、一歩も二歩も踏み出した新たな研究もしていかないと対応は難しい。今後も分野間の連携を強めた研究をおこないたい」
閉会にあたり、古川力研究管理監は、
「平成18年以降、気象、水田作、畜産と異なった分野の専門家が集まり、一つの目標に向かって研究を行ってきた。この5年間の成果は本日の発表のとおり、現場に役立つものから今後の研究シーズとなるものなどさまざまだ。今後ますます温暖化の対策技術が重要になると思われる。さらに研究を進めていきたい」と締めくくった。
●発表者および研究テーマは以下の通り
「気候変動予測モデルに対応した地域気象資源賦存量把握技術の開発」
農研機構 近畿中国四国農業研究センター 企画管理部業務推進室企画チーム 植山秀紀
「乳牛の酸化ストレス低減に関する飼養管理技術」
農研機構 九州沖縄農業研究センター 暖地温暖化研究チーム 田中 正仁
「夏季における周産期乳牛の生産性と飼養管理」
農研機構 九州沖縄農業研究センター 暖地温暖化研究チーム 神谷 裕子
「暑熱を受けたウシ生体および生殖組織におけるストレス指標の検出」
農研機構 九州沖縄農業研究センター 暖地温暖化研究チーム 高橋 昌志
「牛の初期胚発育性に及ぼす高温ストレスの影響」
農研機構 九州沖縄農業研究センター 暖地温暖化研究チーム 阪谷 美樹
「温暖化で豚肉生産はどうなる? ~暑熱ストレスが肥育豚の体温と消化能力に及ぼす影響~」
農研機構 九州沖縄農業研究センター 暖地温暖化研究チーム 松本 光史
「暖地水稲の高温登熟障害の克服に向けた研究と技術開発」
農研機構 九州沖縄農業研究センター 暖地温暖化研究チーム 森田 敏
「簡易土壌水分計で黒大豆のかん水時期を判定」
農研機構 近畿中国四国農業研究センター 暖地温暖化研究近中四サブチーム 黒瀬 義孝
「温暖化により多発する水稲白未熟粒の発生予測方法」
農研機構 九州沖縄農業研究センター 暖地温温暖化研究チーム 脇山 恭行
「暖地水稲の白未熟粒低減のための窒素管理の改善策」
農研機構 九州沖縄農業研究センター 暖地温暖化研究チーム 北川 寿
「乾燥風による玄米の品質低下メカニズムの解明に向けて」
農研機構 九州沖縄農業研究センター 暖地温暖化研究チーム 和田 博史
「気候変動が水田の水利用に与える影響評価手法の開発」
農研機構 九州沖縄農業研究センター 暖地温暖化研究チーム 丸山 篤志
「登熟期の水・施肥管理で光合成や収量の改善は可能か」
農研機構 近畿中国四国農業研究センター 暖地温暖化研究近中四サブチーム 下田 星児
「イネ葉表面の微細水滴リモートモニタリング技術の検討」
農研機構 近畿中国四国農業研究センター 暖地温暖化研究近中四サブチーム 佐藤 恵一