セミクローラトラクタを利用した畑地湛水作業技術
2009年01月06日
畑地で夏場の一定期間湛水を行い、土壌中を高温・還元(酸素が少ない状態)状態に保つことによってセンチュウ等を防除する湛水防除技術が、宮崎県綾川地区のサトイモ栽培、葉タバコ栽培などで取り組まれています。
この技術は未解明な部分も多く、有効性については今後の研究成果が待たれますが、畑での効率的な湛水作業には、機械化作業体系の構築が重要な検討課題です。
水田と異なり、一般的な畑では、排水性を向上させるために勾配があること、耕盤面の起伏が大きく地下部への漏水が大きいこと、畦畔がぜい弱で湛水時に決壊しやすい等の問題があります。
そこで、勾配のある圃場での間仕切り湛水法の検討と、勾配0%圃場での全面湛水を前提に、近年水田地帯を中心に普及してきている「セミクローラトラクタを利用した湛水作業法等」について、一部紹介します。
勾配のある圃場での湛水法
勾配のある圃場での湛水には、一定規模の区画に間仕切りをして、湛水する方法しかありません。間仕切りをする区画の大きさは、圃場の勾配や形状によって変わりますが、5a程度です。効率的な機械化作業には区画が小さく不向きで、あくまでも、小規模湛水を目的とした場合に有効な方法です。
畦畔造成仕切法(左写真 :図2畦畔仕切湛水(5a区画))は、長期間(50日程度)の湛水でも仕切り壁の決壊や崩落が少なく、有望です。畦波シート仕切法、マルチ畦仕切法)は湛水期間中の決壊・崩落が発生しやすく、実用性は低いと考えられます。
2)全面湛水法
圃場の勾配がなく、一定規模の面積のある場合は、各種作業機械を効率的に利用でき、圃場内に仕切壁を設けずに、安定的に全面湛水ができます。
畑圃場の場合は、水田に比べて、代かきの際と湛水期間中の用水量が多くなりますが、クローラ型トラクタによる作業を繰り返すと、用水量を減らせることがわかっています。
【畦塗り作業】
1)畦畔からの漏水防止
過去に湛水したことがない畑圃場では、水田に比べて、畦畔からの漏水が多く見られます。
畦畔漏水を減らすには、畦波シート等を敷く方法がありますが、面積が広い場合は落水後の撤去作業労力がかかり、前述のように地盤が緩んで決壊や漏れがおこることがあります。このため、緩んでいる畦畔表面を畦塗機で締め固めると、漏水防止効果があり、かつ効率的に作業できます。
2)セミクローラトラクタと畦塗機による畦塗り作業
セミクローラトラクタ(24.3kW)に畦塗機(NZR301)を装着して畦塗り作業をした場合、作業能率は0.3h/10a程度、作業速度は0.4km/h程度です(図4)。
また、黒ボク土壌畑における畦塗り前後の壁面の固さ(SR-2型貫入抵抗値)(図5)は、壁の表面部が作業前の3倍程度の固さに締められ、長期間の湛水にも十分耐えられる固さになっています。
(※貫入抵抗値→大きいほど固い 畦表面からの深度→壁面からの深さを示す)
図5 畦塗り前後の固さ変化(SR-2型貫入抵抗)
代かき作業
1)代かきによる漏水防止
畑圃場では、耕盤が不整一で地下浸透が大きく、代かき抜きで湛水するのは簡単ではありません。また、大量の水を短時間に入れながら代かき作業をすることが重要です。
2)セミクローラトラクタによる耕盤形成促進
耕盤が破砕された圃場や不整一な圃場では、クローラタイプトラクタで代かきをすることで、耕盤形成が促進されます。車輪式トラクタに比べて耕盤面の凹凸修復効果が高く、1~2年で耕盤が均一に形成されます(図6)。
●耕盤破砕後2年目のほ場での耕盤形成状況を示す
●2ヶ年同一機械,各々同形状20a区画ほ場で実施
図6 耕盤形成効果
3)耕盤形成促進による減水深(用水量)低減効果
セミクローラトラクタで代かき作業をした場合、車輪式トラクタの代かきに比べて、代かき用水量は大差ありませんが、湛水期間中の減水深を初期から減らせる上に、湛水期間中(約50日)の用水量を10~30%程度低減できると思われます。
図8 代かき法の差異と湛水期間中の減水深の変化
結果
畑地での湛水防除の有効性は、未解明な部分が多く、今後の研究解明が待たれるところです。この技術の導入に当たっては、地域の圃場整備の実態や対象作物、隣接地への影響等を十分検討していくことが重要と考えます。
なお、これまでに鹿児島県農業開発総合センター大隅支場(環境研究室、農機研究室)等で実施した試験結果は、次の通りです。
1)一般的な畑圃場では、排水性向上のために数%の勾配があります。湛水可能な圃場が未整備の場合は、圃場面の勾配が0%で、湛水の条件が整備されている圃場を選ぶと、効率的な機械の利用ができます。
2)水温を上昇させる必要があるので、湛水時期は、7月中旬~9月上旬頃が適当です。なお、湛水期間中の水深は4~5cmとし、昼間は水を止めて水温を上げ、給水は夜間にすると保温効果があります。
3)湛水防除技術は、センチュウには一定の効果が期待できますが、病害には効果が不十分です。土壌病害の恐れがある圃場では、土壌消毒と湛水防除を組み合わせた防除が必要です。例えばカンショの紫紋羽病やタバコの立枯病発生の圃場では、湛水防除の効果が十分に出ないことがあります。
4)湛水処理後の圃場では、地域の施肥基準に準じた肥培管理をすれば、だいたい慣行の薬剤処理をした圃場と同程度の生育・収量が得られます。しかし、湛水圃場では、土壌中の石灰や苦土等が、湛水処理をしない場合に比べて、多く流亡する傾向があります。作付け前に土壌診断等をきちんと行い、石灰資材等を投入して、土づくりをする必要があります。
5)代かき後の減水深は、30~50mm/日程度です(圃場により異なる)。減水深が大きい圃場では、湛水期間中の水温が上がらずセンチュウの防除効果が劣り、作物に吸収されない窒素成分が溶脱する可能性があります。クローラトラクタで代かきなどを行い、地下浸透を抑えることが重要です。
執筆者
鹿児島県農業開発総合センター大隅支場
大村幸次 (田中正一)
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