「地球温暖化とこれからの農業」シンポジウム
2007年12月27日
本年7月設立された、「特定非営利活動法人中国四国農林水産・食品先進技術研究会」と中国四国農政局との共催によるシンポジウム「地球温暖化とこれからの農業」が大学、企業、試験研究、行政、農協、農家等関係者約100名の参加を得て、11月5日、高松市内で開催された。
近年の地球温暖化の加速は、人々の生活や環境の変化を始め、農業についても深刻な問題となっている。その温暖化の仕組みと、それが農業、食糧生産に与える影響を正しく認識して、生産現場における今後の技術対策を早急に確立していく必要があることから、地球温暖化に関する農業研究の最前線の状況を周知し、関係者の理解と実践を促すことを本シンポジウムの目的としている。
最初に、「地球温暖化の現状と予測」と題して、筑波大学生命環境科学研究科の林教授から講演があった。
最近報道されているさまざまな場面での温暖化の兆候、例えば、気温上昇のスピード化、島国ツバルの水没の危機、南のチョウの北上、海外の毒グモ・蚊の上陸、大阪湾に黒マグロ、南の食材(ゴーヤ、マンゴー等)の北上や、水稲、果樹栽培への影響についても説明された。
今後の予測として、今世紀末には世界の平均気温は3度上昇する。特に北半球の上昇が大きくなることを強調された。
続いて、「温暖化の稲作への影響と対応技術」と題して、中央農研センター・北陸研究センターの松村上席研究員から講演があり、近年、稲作栽培で問題視されている登熟期の高温による白未熟粒、胴割れ粒等による品質低下問題について、まず、その要因として考えられるのは、
(1)登熟期気温の上昇、
(2)出穂期の前進と盛夏の重なり、
(3)分けつ期高温による籾数過剰、
(4)少肥化傾向による登熟期の窒素栄養不足、
(5)地力低下や作土層浅耕化など土壌管理の影響、
(6)登熟期の早期落水傾向、
(7)作付け品種、経営規模など営農的要因、
(8)ほ場の気温、用水環境の変化 があると分析された。
その技術的対策としては、北陸地域で実施中のものとして、
(1)移植時期の遅延、
(2)適正籾数への制御・誘導、
(3)疎植栽培、
(4)肥効調節型肥料の利用、秋穂肥施用の改善、
(5)早期落水の防止、
(6)地力の向上と作土層確保による根系生育促進、
(7)高温登熟性の高い早生品種の導入、
(8)作期分散やほ場地力の均一化、ほ場環境・用水環境の改善 等があるとされた。
最後に「温暖化の果樹への影響と対応技術」と題して、果樹研究所・果樹温暖化チーム杉浦上席研究員から講演があった。
果樹は他作物に比べ気候変動に対する適応性が低いことから、いろいろな影響が果実(収穫期の前進・遅延、着色不良・遅延、果実の軟化・日焼け等)、樹体(凍害、日焼け)に出るが、着色不良、生育遅延が一番の問題であり、リンゴ、カキ、ブドウ、オウトウ、温州ミカンへの影響が大きく、病害虫としては、南方系の病気(カンキツグリーニング病等)の発生、カメムシの北上がある。主な対策として、適応品種の導入、着色促進のための環状剥皮等の説明があった。
地球温暖化はグローバルな問題であり、早く対応すれば、国内や国際協力において有利に販売戦略を展開するチャンスでもあると締めくくられた。
この後の意見交換において、参加者からは、「二酸化炭素値の上昇は、新しい作物を作るチャンスである」、「水稲大型ほ場の生育ムラが大きくなっている」、「温暖化対策は土づくり、栽培技術で対応可能か」「新高ナシにおいて、花芽開花異常が発生したが、対策は」等活発な質問が出された。
最後に司会者から、「今後とも地球温暖化は進行し、農業への影響は小さくない。試験研究、指導機関においては悲観論、楽観論の両論あるが、悲観することは無いというのが結論である」とシンポジウムを締めくくった。(みんなの農業広場事務局)