提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


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注目の農業技術



花粉採取の省力化と花粉使用量の削減につながる技術開発

2025年01月31日

はじめに
 ニホンナシをはじめとする多くの果樹類の生産現場では、人工受粉が必須の作業であり、受粉に必要な花粉の調達は高所での重労働となっている。そのため、近年では諸外国から輸入した花粉を利用する生産者が増加しているが、キウイフルーツでは輸入花粉から侵入したとされる「キウイかいよう病」が国内で発生し、樹の枯死等による大きな被害が各地で報告されている。
 さらに、ナシとリンゴに大きな被害を及ぼす火傷病が中国で発生したことを受け、農林水産省は2023年8月30日付けで両樹種の中国産花粉の輸入を停止した。そのため、各産地からは、国産花粉の安定供給を求める要望が高まっており、「花粉採取の省力化」と「花粉使用量の削減」につながる技術開発は急務とされている。
 このような背景のもと、我々は「イノベーション創出強化研究推進事業(生研支援センター)」の一環として、「輸入花粉に依存しない国産花粉の安定供給システムの開発(課題番号:01030C)」に取り組んできたので、その成果の一部を紹介させていただく。


花粉採取専用技術の開発
 本課題では、国内の生産者が花粉採取を効率的に行えるよう、ナシ・スモモ・キウイフルーツの3樹種に焦点を当て、花粉採取専用樹形の開発に取り組んできた。
 ナシとスモモでは、主枝を低樹高で水平に配置して隣接樹とジョイント接ぎ木することで、作業負荷の軽減と作業効率の向上が図られる「低樹高ジョイント仕立て(写真1)」を考案した。


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写真1 ニホンナシの低樹高ジョイント仕立て


 主枝高は腰高(80~100cm程度)、植栽間隔は120~150cmとしており、主枝を水平誘引するためのパイプ等の資材が必要となる。本仕立ては、脚立上での作業が不要で首上げ姿勢も少なく軽労的であり、ナシでは立木仕立てや株仕立てと比べて時間当たりの作業効率(花蕾採取量)が1.6倍程度向上した。さらに、本仕立てでは、花芽着生数の増加に伴う花粉収量の増加も確認された(図1)


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図1 ニホンナシの樹形の違いが花芽着生数に及ぼす影響

 また、キウイフルーツでは、「Tバー仕立て(図2)(主枝の高さ1.7m、株間2m、列間4m)」により花粉収量が25~50%増加すること、夏季の管理時間が20%削減されることが認められた。これと同時に、木に着生している花蕾を回転ブラシにより効率的に採取する「手持ち式花蕾採取機」を完成させた(写真2)


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図2 Tバー仕立て(キウイフルーツ)の模式図


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写真2 手持ち式花蕾採取機


 本機を使用する際には、樹冠の下にブルーシート等を敷き、その上に落とした花蕾を1カ所に集めて容器等に回収することを想定している。本機と低樹高ジョイント仕立ての組み合わせにより、ナシでは花蕾採取時間が60~80%程度、スモモでは75%程度削減されるという成果が得られた(図3)
 なお、使用する時には手袋と防護メガネを着用し、回転中のゴムコードに触れないようにする等の注意が必要である。


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図3  樹形および採取方法の違いがナシの採花効率に及ぼす影響(時間あたり生花重)


花粉使用量削減技術の開発
 さらに、受粉時の花粉使用量を削減できるよう、花粉量削減につながる栽培管理の検討を行ってきた。
 ナシについては、「除芽」という開花数制限技術の利用により、花粉使用量が約30%削減されるという成果が得られた。本技術は、「幸水」や「豊水」の花芽数を側枝長1m当たり8芽に制限し、その後の受粉と摘果で1m当たりの収量を6果に調整するというものである。
 開花数を制限することにより、人工受粉や摘果の作業時間が削減され、着果管理作業時間が10a当たり30時間程度削減できるという成果も得られている。ただ、芽枯れの発生時や開花期前後の天候不良が予想される場合は、処理を遅らせる等の対応が必要である。本技術により開花時の葉数は一時的に減少するが、開花1カ月後には80~90%まで回復することが示されており、果実肥大や糖度等の果実品質への影響が出ないことも確認されている。
 花粉量削減につながる受粉機の開発では、ハンディータイプの「静電風圧式受粉機」のプロトタイプを完成させた。本機は花粉に静電気を帯電させることで付着率が向上し、令和3年度に実施した試験では、花粉の希釈倍率20倍と併せることで花粉使用量をニホンナシでは最大で80%程度、スモモでは50%程度、キウイフルーツでは60%程度削減できることを確認した。


今後の展望
 冒頭に記載したとおり、多くの樹種において国産花粉の供給が必要とされており、花粉を採取して販売する新たなビジネスを実現するためには、大規模な花粉採取専用園地とそれに適した大型の採取機が必要である。
 現在、我々は「戦略的スマート農業技術等の開発・改良(JPJ011397)(生研支援センター)」の一環として、「花粉採取と受粉作業の省力化を可能にするスマート農業技術の開発」に取り組んでいる。その中では、低樹高ジョイント仕立ての側枝に着生した花蕾を採取する「自走式花蕾採取機」の開発にも取り組んでいる。これらの技術が有効に活用され、花粉供給の安定化とそれに伴う果実の安定生産につながることを期待している。


執筆者
鳥取大学 農学部
准教授 竹村 圭弘


●月刊「技術と普及」令和6年12月号(全国農業改良普及支援協会発行)「連載 みどりの食料システム戦略技術カタログ」から転載