リンゴ黒星病対策用落葉収集機の開発(発生軽減のための被害落葉収集)
2024年12月20日
はじめに
リンゴ黒星病は、葉や果実に円形~不整形で暗褐色の病斑を形成し、商品価値を失うことから、重要病害として位置付けられている。
本病は薬剤による防除のほか、伝染源として重要な被害落葉を園地内から除去するか、土にすき込むことで発生を低減できるが、積雪地では落葉前に積雪があるため、落葉処理は春に限定される。加えて、消雪後の落葉は地面に張り付いて剥がれにくい。さらに消雪後、被害落葉から子のう胞子が飛散するまでの限られた期間内に作業を終える必要があり、重労働のため、被害落葉の収集は、生産現場においてほとんど実施されていない。
そこで、青森県産業技術センターりんご研究所は、農研機構農業機械研究部門や(株)オーレックと共同で、省力的でより簡易に被害落葉を収集できる落葉収集機を開発した。本稿では落葉収集機の概要とその効果などについて紹介する。
落葉収集機の機要
落葉収集機は、牽引スイーパー本体(回転ブラシ、接地輪、集草バケット(以下、バケット)、バケット開閉ひも(以下、開閉ひも))と落葉収集レーキ(以下、収集レーキ)で構成されており、刈り刃を上げた状態の乗用草刈機でこれらを牽引することで機能する。
左上 :開発した落葉収集機(牽引スイーパーは白枠) / 右下 :収集作業の様子
接地輪が回転すると接地輪と一体となったブラシが回転し、地表面の落葉をバケットに回収する。収集レーキは地面に張り付いた落葉を掻き起こすため、落葉は後ろの回転ブラシで容易に回収できる仕組みとなっている。なお、バケット内に溜まった落葉は、運転席から開閉ひもを引っ張ることで開閉可能(10kgまで)となり、容易に排出できる。
落葉収集機の性能
りんご研究所内で乗用草刈機の通常速度条件で(5~10km/h)落葉の除去割合を調査した結果、収集レーキを付けないで作業した場合は、2回の走行で約46%、3回走行で約71%となった(図1)。
図1 走行回数と除去割合
(注)
1 除去割合:(作業前落葉乾物重-作業後落葉乾物重)/作業前落葉乾物重×100
2 各区3か所のサンプリングの平均値
一方、収集レーキを付けて作業した場合は、1回の走行で約52%、2回の走行では約90%とほとんどの落葉を除去できた。このことから、積雪地で落葉収集機を利用する場合は収集レーキを取り付け、①草刈り時の速度とほぼ同じ5~10km/hで走行する、②同一カ所の走行回数は2回を目安、が効果的と考えられた。
作業前後の状況。作業前(左)と作業後(右):除去割合約90%
落葉収集織の現地実証試験
令和3年4月に、園地条件が異なる県内3市町村6園地において、前項の条件で落葉収集機を利用した落葉除去作業を行い、落葉収集状況と作業能率(作業員1名による1時間当たりの作業面積)を算出した。その結果、傾斜や起伏がある園地などそれぞれ条件が異なる園地で実施したにもかかわらず、落葉除去割合はいずれの園地も約83~96%とほとんどの落葉が除去できた(表1)。
表1 現地圃場における落葉収集の状況
*作業員1時間当たりの作業⾯積
(注)
1 作業か所での落葉除去割合は80%以上を目安にして走行した
2 手持ちレーキによる樹冠下の落葉の樹列間への掻き出しは⾏わなかった
3 平坦地で実施した⼿持ちのレーキを⽤いた作業能率は0.9a/h
また、落葉の排出時間を除いた作業能率は、面積が小さい園地や支柱が多い園地では約15~24a/h、面積が比較的大きく平坦で支柱もほとんどない園地では、約29~30a/hであった。園地条件により差はあるものの、手持ちのレーキを用いて収集作業した場合の作業能率(0.9a/h)と比較すると16~34倍であり、落葉収集機を利用することにより短時間で効率的な作業が可能となった。
落葉収集の効果
平成30年~令和3年にりんご研究所内に落葉収集区と無処理区を設け、落葉収集区は消雪後の3月下旬から4月上旬にかけて現地実証試験に準じて落葉を収集し、その後両区の子のう胞子の飛散状況と黒星病の発生状況を調査した。
その結果、子のう胞子の飛散は年次により飛散量に違いはあるものの、無処理区の総飛散数は1721~3万9478個であったのに対し、落葉収集区では714~2670個で、無処理区の3分の1から15分の1と、少ない傾向にあった(図2)。
図2 リンゴ黒星病の子のう胞子の飛散状況(上)と発病状況
(注)
1 子のう胞子飛散状況(上段)は各年次4月中旬~6月上旬に胞子採集器を1台設置し、累積胞子飛散数を調査
2 発病状況(下段)は各年次とも5月下旬に各区の'ふじ'を対象に1区3樹、1樹10果そうを 抽出し、果そう葉における黒星病の発生状況を調査し、発病葉率を算出
3 平成30年は乗用草刈機の刈刃を下げ、粉砕した葉を収集
4 各年次とも「展葉1週間後」~「落花20日後頃」まで、黒星病に効果の低いベンレート水和剤とトップジンM水和剤を交互に散布
一方、果そう葉における黒星病の発生状況も年次により発生率は異なるものの、無処理区の発病葉率は約16~48%であったのに対し、落葉収集区は約2~31%と少なく推移した。
このことから、落葉収集機を利用することでリンゴ黒星病の子のう胞子飛散を抑制し、初期発生を低減することができた。
落葉収集機導入時の留意点
落葉収集機は令和4年3月より(株)オーレックから市販されているが、利用する際には下記のことに留意する。
①積雪地では落葉前に積雪することが多いので、作業は春に実施する。
②落葉収集は子のう胞子飛散盛期前の消雪後~展葉1週間後頃までに行い、園地の乾燥時に実施する。
③樹冠下など乗用草刈機が走行できない場所は、あらかじめ手持ちのレーキで樹列間に掻き出しておく。
④収集した落葉は、園地外へ搬出する、穴を掘って埋める、土にすき込むなど適切に処分する。
⑤落葉収集機は乗用草刈機に牽引ヒッチが付いていれば使用可能であるが、機種によっては牽引ヒッチの高さが合わず、取り付けできないものもあるので確認が必要である。
おわりに
今回紹介した落葉収集機は省力的に落葉が収集でき、落葉で越冬する他の病害虫(褐斑病やキンモンホソガなど)の密度低減にも期待が持てることから、今後有効に活用されることを切に願う。
なお、本稿で紹介した成果は、農研機構農業機械部門「農業機械技術クラスター事業」の支援を受けて実施したものである。
●参考
落葉収集機を利用した省力的な落葉除去とリンゴ黒星病に対する発生低減効果
執筆者
地方独立行政法人 青森県産業技術センター りんご研究所 病害虫管理部
部長 赤平 知也
●月刊「技術と普及」令和6年8月号(全国農業改良普及支援協会発行)「連載 みどりの食料システム戦略技術カタログ」から転載