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高能率水田用除草機を活用した水稲有機栽培体系

2024年07月03日

■高能率水田用除草機の概要
 農研機構とみのる産業㈱が農水省の第4次農業機械等緊急開発事業により共同開発した高能率水田用除草機(図1)は、4条用、6条用、8条用があり、各々にマット苗用の条間30cm仕様とポット苗用の条間33cm仕様がある。4tトラックに搭載可能なように、8条用水田用除草機は両端の1条分の除草機構が折りたたみ式となっている。


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図1 高能率水田用除草機


 搭載する除草機構は、3輪型乗用管理機(みのる産業(株)製)のPTOにより駆動して、除草を行う。本除草機は、3輪型乗用管理機の車体中央部に搭載される点が大きな特徴である。オペレータが車両座席に着座した場合に除草機構を常に視認できるため、イネ株や圃場状況を確認しながら除草作業を行うことができ、精度の高い除草作業が可能である。
 また、本除草機は、車体後部装着方式の除草機に比べ、車体中央部に除草機構を搭載することで操舵に伴う除草機構と条間のずれが小さくなり、欠株の発生が減少する。
 これらのことより、本除草機を利用した通常の圃場条件における除草作業は、最速およそ1.2m/sで行うことが可能である。
除草機構は、水稲の条間は爪付きロータ式で回転することにより除草を行い、株間は揺動ツース式を採用し、ツースが左右に揺動することにより株間の除草を行う(図2)


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図2 高能率水田用除草機の除草機構の概要


 除草機構自体は昇降可能であり、水田面をフロートで感知して作業の高さを自動調整する。爪付きロータは、作業面の位置に合わせて深さが調整できる(図3)
 また、株間の揺動ツースは、水田面の高さに合わせて除草部の高さを調整することにより、ツースの深さが調整可能であり、雑草の発生状況に応じて揺動速度を高・低の2段階に変速可能である(図3)
 この他、オプションとしてチェーン除草機や米ぬか散布機も市販されている。


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図3 除草機構のロータおよびツースの調整機構


■高能率水田用除草機の性能
 本装置の除草効果と欠株率を調査するため、4条用については島根県、6条用については岩手県で除草試験を行った。
 島根県における4条用装置の試験では、除草作業を2回(除草時期6月、移植後5日、15日)行い、岩手県における6条用装置の試験では、除草作業を3回(除草時期6月、移植後9日、16日、21日)行った。

 両試験とも作業速度は約1.1~1.2m/sで除草作業を行い、除草効果と欠株率を調査した結果、島根県での試験では2回の除草作業で除草率は80%以上であり、岩手県では3回の除草作業で除草率は90%以上であった(図4)
 また、除草部のずれが少なく条間ロータと苗の接触が減少したことで、両試験とも欠株率はおよそ2%以下であった(図4)


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図4 高能率水田用除草機の除草効果と欠株率


■高能率水田用除草機を活用した水稲有機栽培体系の留意点
 移植する苗については、中苗から成苗を移植する。除草作業を行う際には、苗の活着状況を必ず確認する。苗を引っ張った場合に、抵抗感があって活着していれば除草作業が可能である。活着が弱い場合には、黒色のゴム製の泥除けをローリング制御板に載せ、水流による欠株が発生しないように走行速度やツースの揺動速度を調整する。
 除草時期は、イネが活着したら可能な限り早く1回目の除草作業を行う。目安としては、1回目の除草作業は田植え後7~10日以内、2回目の除草作業は1回目の7~10日後、3回目の除草作業が必要な場合は、2回目の7~10日後に行う。除草時期は、地域の気候や圃場条件によって影響を受けるため、イネ苗の活着や雑草の発芽および発生量を確認しながら、除草時期を決定する必要がある。
特に、早期の除草作業は除草効果が高く、コナギの1葉目が展開するまでに除草作業を行うと、雑草防除効果が高い。除草作業後は、深水管理を行うことで抑草効果が上がる。
 除草作業時の圃場条件については、水深が3~5cm程度が最適である。水深が深い場合は、除草作業時に発生する水流により、苗の倒伏や埋め込み等が発生し、欠株の原因となる。また、水深が浅すぎる場合は、ロータやツースに負荷がかかり、作業能率が落ちるとともに除草した雑草が水面に浮かばずに土壌中に残ってしまうため、除草効果が落ちる。
 耕盤が深い圃場では、タイヤや除草機構の土押し等により欠株が発生するので、作業速度を落として作業を行い、必要であれば補助車輪を利用する。また、田植え前にレーザー均平機などを利用して、圃場を十分均平にすることが望ましい。
 なお、「高能率水田用除草機を活用した水稲有機栽培の手引き」が農研機構のHPで公開されているので、参照されたい。


▼参考
高能率水田用除草機を活用した水稲有機栽培の手引き


執筆者
農研機構 農業機械研究部門 無人化農作業研究領域 小型電動ロボット技術グループ
グループ長
吉田 隆延


●月刊「技術と普及」令和5年12月号(全国農業改良普及支援協会発行)「連載 みどりの食料システム戦略技術カタログ」から転載