電動の農業用追従ロボット「メカロン」による農業の省力化・軽労化
2024年07月02日
はじめに
手作業が多い果樹や露地野菜等の生産現場には省力化、軽労化を目的としたスマート農業技術の開発・普及が求められる。一般的に「収穫ロボット」や「防除ロボット」などが広く認知されているが、これら特定の品目や作業に特化したロボットは、栽培様式や作業の現場が異なると利用できない場面が多く、実用化するには販売台数が見込めない。
さらに、農作物は工業製品と異なり、形状が均⼀でなく、収穫作業には熟練の技と経験が必要であり、その取り扱いをロボットが直接担うには複雑な制御・情報処理技術が必須であるため、耐久性、メンテナンス性やコストなど実用化のハードルが極めて高い。このため、品目、作業の特化ではなく、汎用・多用途利用が可能なロボットが望ましい。
人との「協働」をコンセプトにする小型電動ロボット
農業用追従ロボット「メカロン」は、人と協調して農作業する「協働」をコンセプトとして開発した小型電動ロボットである。人とロボットが一緒に農作業を行う際に、人が繊細な作業を担当し、運搬等の単純な重労働はロボットが行うことで、さまざまな農作業を軽労化・省力化する。
メカロンは複雑な機構や制御を極力用いずにシンプルな構造や機能とすることで、汎用・多用途に利用可能な小型電動ロボットとして開発された。その構造と仕様について、以下に示す。
○機能および仕様
・ 走行モード : リモコン操作 / 自動追従走行 /メモリトレース走行
・ センサ :2次元LiDAR 1個
・ 走行速度 最大:1.2m/秒
・ 積載可能質量 :100kg
・ 稼働時間 :6時間(最高速度の連続走行)~18時間(追従作業)
・ 静的転倒角 :40°(前後・左右)
・ 機体寸法 :89✕85✕64cm(全高✕全長✕全幅)
・ 機体質量 :136kg(バッテリ6個搭載仕様)
メカロンは1つのLiDAR(Light Detection And Ranging)センサで制御され、左右1対のモータで駆動する。走行部はクローラで、膨軟な路面やぬかるみ、凹凸、傾斜地など、さまざまな農地において高い走破性を発揮する。
コントローラは、電源ボタンとジョイスティックのほかに、速度増加、減少スイッチとスタートボタンで構成される。スタートボタンで追従走行、ジョイスティック操作、メモリトレース(⾃動走⾏)の3つの⾛⾏モードにボタン一つの操作で切り換えが可能である。
このように、シンプルな構造や操作が可能であることから、故障や動作不良時には原因の特定と修理作業が容易で、メンテナンス性が高いこともメカロンの特徴である。
メカロンが実現する「人とロボットの協働による農作業」は、内閣府の科学技術基本計画の中の「世界に先駆けた「超スマート社会」の実現」に貢献する。また、農林水産省が策定した政策方針「みどりの食料システム戦略」の2・(2)「機器の電化・水素化等、資材のグリーン化」にも貢献し、排ガスを出さない、化石燃料を使用しない農業の実現に寄与する。
人追従機能とメモリトレース機能
メカロンの機能は。ジョイスティックによる操作のほかに、人に追従して走行する「追従走行機能」と、一度走行した経路を記憶して同じ経路を自動走行する「メモリトレース機能」がある。これらの走行機能はメカロンに搭載された2DのLiDARセンサ1台で制御されている。LiDARセンサは、レーザー光を水平方向に照射し、その反射を計測することで周囲の物体までの距離や形状を計測するセンサである。
「追従走行機能」
追従走行機能は、メカロンのスタートボタンを押したとき、前方にいる人を追従対象として認識し、一定の距離を保つように自動的に追従する。同時に追従対象以外の物体を障害物と認識して回避経路を生成し、障害物を回避して人の追従を継続する。
回避経路が生成できない(障害物への衝突が避けられない)場合は、障害物から一定の距離で停止し、衝突を防止する。多くの類似技術は障害物を検知して停止するか、もしくは障害物に接触することで停止するが、追従走行時に障害物を自動的に回避する点で類似技術に対して優位性がある。これらの機能を利用して、メカロンがさまざまな作業を補助することにより、主に人手による農作業の軽労化を実現する。
「メモリトレース走行機能」
メモリトレース走行機能は、一般に教示再生と呼ばれる自律走行技術であり、LiDARセンサで走行し、周囲の物体の距離と形状から地図と経路を構築し、記憶した地図を再生するように経路を走行することで自動走行を行う。また、通常のGPS/GNSSベースの自動走行技術が苦手とする樹木の下や屋内などの電波を遮る場所での自動走行が可能である。
さらに、一度経路を走行するだけで経路の構築が可能なため、自動走行の操作が容易である。これらの機能を利用することにより、メカロンが運搬作業などを人の代わりに行い、作業の省力化を実現する。
おわりに
メカロンは、その使いやすさと汎用性から農家1戸に1台ではなく、農業従事者1人に対し1台の普及を目指している。多くの農業従事者が作業の相棒として利用することで、わが国の産業における労働力不足の解消に貢献する。また、人と小型電動ロボットの協働は、作業の軽労化、省力化を図れるだけでなく、農業現場におけるICT、IoT技術の利用を促進し、ロボットが人のすぐそばで人の行動、労働を手助けするスマート社会の実現を目指す。
メカロンは、汎用かつ多用途に利用可能な小型電動ロボットであり、農業、林業、漁業を含む産業分野だけでなく、幅広い業界での活用が期待される。
▼参考
農業用追従ロボット(YouTube)
執筆者
農研機構 農業機械研究部門 無人化農作業研究領域 小型電動ロボット技術グループ
上級研究員
塚本 隆行
●月刊「技術と普及」令和6年3月号(全国農業改良普及支援協会発行)「連載 みどりの食料システム戦略技術カタログ」から転載