提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


農業のポータルサイト みんなの農業広場

MENU

注目の農業技術



紫外線(UVB)照射によるイチゴの病害虫防除技術

2024年06月07日

光環境制御による病害虫防除
 ハウス栽培では、当然のことながら作物ファーストな環境が整えられている。作物に最適な温度・湿度等の環境では、特定の病害虫が発生しやすい。これらの防除に農薬を連用すると薬剤抵抗性が発達し、防除が困難となる。
 兵庫県では、ハウス環境の一つである光、とくに中波長域(280-315nm)の紫外線であるUVBに注目し、農薬に頼らない防除法として、UVB照射による病害虫防除法を開発してきたので、ここに紹介する。


UVB照射によるイチゴうどんこ病の防除
 兵庫県では、2005年からUVBを用いた病害抑制技術の開発に取り組み、イチゴ株の一部にUVBを当てれば、株全体に抵抗性が誘導され、うどんこ病にかかりにくくなることを明らかにした。この技術は「イチゴうどんこ病の発生を抑制する病害防除システム」として農業新技術2010に選出され、専用の照射システム(商品名:タフナレイ)が共同開発したパナソニック電工株式会社(当時)から販売された。
 その後、電照用ソケット(E26口金)に取り付け可能な電球形のUVBランプ(パナソニック ライティングデバイス株式会社製)が市販されると、設置が簡便で低コストになったことから、全国のイチゴ農家で利用されるようになった(兵庫県内の普及率:20%以上)。


UVB照射と光反射シートによるうどんこ病・ハダニ同時防除(UV法)
 2012年から実施した土耕栽培の試験において、上記のシステムにUVBを反射するシート(デュポンTMタイベック®)の株元設置を加えると、葉裏にいるハダニにUVBが当たり、主に卵のふ化が抑制され、ハダニが増えにくくなることを明らかにした(UV法:図1)。
 ハダニ卵の致死効果は、UVB照度と照射時間の積算量で決まる(弱い光でも長時間当てるとハダニ卵がふ化できない)、UVBによるダメージはハダニが太陽光に当たると回復する(光回復)ことから、照射は夜間3時間とし、日の出まで3~4時間前に照射を打ち切る等、抑制効果のメカニズムもわかっている。


20240319_UVB_z1.jpg
図1 光環境制御による病害虫抑制効果のイメージ


 留意点としては、①UVB積算量が多いと葉焼け傷害が出る、②光反射シートの株元設置により地温が1~2℃低下する、等がある。前者はランプ設置間隔と照射時間、後者は光反射シートの設置面積(畝肩の設置幅を短くし、黒マルチの一部を露出させる)を、それぞれ調整することで対応できる。株上のUVB照度が0.12W/㎡になるようランプを設置し、7分丈の光反射シートと組み合わせることで、土耕栽培において、ハダニも抑制できることがわかった(図2)


20240319_UVB_z2.jpg
図2 UV法によるハダニ抑制効果(土耕栽培)


UV法の限界と天敵カブリダニによる補完
 UV法によりハダニは抑制できたが、株が混み合う春以降は葉裏にUVBが届かなくなり、ハダニは増える(図2)。ランプとの距離がとれず照射ムラが生じる高設栽培では、その傾向は強かった。
 そこで、高設栽培において、UV法(株上のUVB照度:0.1W/m2)と天敵カブリダニ(チリカブリダニ、ミヤコカブリダニ)を併用したところ、高いハダニ抑制効果が確認できた(図3左)。「天敵のみ」では放飼後、一時的にハダニが増えるのに対し、「UV法+天敵」ではハダニを低密度に維持できた(データ略)。UVBが当たらない葉裏で生き残ったハダニを、UVBを避けたカブリダニが捕食すること等により、併用による相乗効果が得られたと考えている。
 また、光反射シートで下からもUVBを当てることで、うどんこ病の抑制効果が向上することを確認している(データ略)。上記の天敵との併用試験でも、対照区は殺菌剤4回(9成分)を散布して、うどんこ病の発病果率を約3%に抑えたのに対し、UV法では殺菌剤の散布なしで、ほぼ0%であった(図3右)


20240319_UVB_z3.jpg
図3 UV法によるカブリダニとの併用によるハダニ抑制効果とうどんこ病抑制効果(高設栽培)

20240319_UVB_z4.jpg
図4 UVBランプの夜間3時間照射
UVBランプの夜間3時間照射により、うどんこ病の抑制ができる。さらに、光反射シートや天敵との併用により、ハダニとの同時防除も可能である


IPM基幹技術としてのUV法
 UV法により、イチゴの果色が濃く、糖度が高く、果皮が硬くなるなど、品質が向上した。このことは技術導入の利点となる。さらに、9年分のハウス試験の結果から、UV法によりアザミウマ類の被害も軽減する傾向がみられた。
 UV法は物理的防除の一つであり、これだけで、うどんこ病、ハダニ、アザミウマの被害をゼロにできる訳ではない。防除効果を安定化させるには、他の防除法との有効な組み合わせが必須である。ハウス内の環境や病害虫の発生程度は、ハウス毎に異なる。UVBランプや光反射シートの設置方法を工夫し、最適化した条件でUV法を導入し、他の技術と組み合わせることで安定生産をいかに実現させるか、普及指導員の腕の見せ所である。
 UV法の開発は、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「次世代農林水産業創造技術」(管理法人:生研支援センター)の支援を受け、大学、国および公設試験場と連携して実施した。この取り組みにおいて作成したマニュアル等の参考情報が、皆様の役に立てば幸いである。


【参考情報】
紫外光照射を基幹とした イチゴの病害虫防除マニュアル
20240319_UVB_qr1.jpg

▼UV法によるハダニ抑制効果が実感できるYouTube動画(兵庫県立農林水産技術総合センター チャンネル)
 兵庫県では、YouTube広報動画を作成しています。動画では、タイムラプスによりハダニが増えない様子を撮影しています。

紫外線照射によりハダニは増えない
20240319_UVB_qr2.jpg


▼タイベック(光反射シート)上のアザミウマの行動
 タイベック(光反射シート)上でアザミウマの行動が攪乱されている動画を丸和バイオ(株)へ提供しました。

20240319_UVB_qr3.jpg

執筆者
兵庫県立農林水産技術総合センター 農業技術センター 病害虫部
課長(防除指導担当)
田中 雅也