提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


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畑地の地力窒素簡易診断を活用した窒素の適正施肥量

2024年03月28日

地力窒素診断の必要性
 畑地の適切な施肥を行うためには、土壌診断を行い、畑の養分状態を知ることが大切である。土壌養分のうち、窒素は作物の生育、収量、品質に最も影響を及ぼすが、一般的な土壌診断処方箋には、窒素施肥量増減の目安となる可給態窒素(以下、地力窒素と表記)が診断項目に入っておらず、窒素肥沃度に応じた施肥管理が難しい要因になっている。
 また、最近の肥料価格高騰の対策としても、リン酸、カリの減肥診断に加えて、地力窒素診断の必要性が高まっている。
 そこで最初に、農業者自らが実施可能な地力窒素の簡易判定法を紹介する。次に、得られた地力窒素判定値を、窒素施肥量の増減に活用する方法について解説する。


地力窒素とは
 土壌中の窒素のほとんどは、作物が吸収できない有機態として存在している。この有機態窒素のごく一部が土壌微生物の働きで分解され、無機態窒素となって作物に吸収される。堆肥施用等の土づくりによって土壌中の有機物量が増加し、窒素の無機化量が多くなるほど「地力が高い」といわれる。


地力窒素簡易判定法
 地力窒素は、畑土壌を微生物が活動しやすい温度(30℃)や水分条件に調整して4週間静置し、その期間に無機化した窒素量を測定して求める。図1で示した簡易判定法では、培養法で求める窒素量を2日間の工程で推定することが可能である。


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図1 地力窒素簡易判定法の作業工程


地力窒素レベルに応じた施肥法
 各地域で設定されている「施肥基準」は、目標収量を確保するための標準的な施肥量であり、土壌養分が土壌診断基準値内である前提で作成されている。窒素の場合、標準的な地力窒素レベルを想定している。
 標準的な地力窒素レベルは3mg/100g程度であり、これ以上ならば地力窒素レベルに応じて窒素減肥が可能である(図2)。一方、これ未満の場合は、まず堆肥等の有機物施用による土づくりを優先し、標準的な地力窒素レベルに達するまでの期間は、目標収量確保のために窒素肥料を施肥基準よりも増量して補完する必要がある。


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図2 地力窒素レベルと窒素施肥対応
※)窒素増肥だけでは目標収量の確保が難しいため、まず土づくりから


地力窒素測定結果の活用
 地力窒素は30℃4週間の窒素無機化量であり、分析値(mg/100g)を単純に窒素施肥量(kg/10a)に読み替えることはできない。そこで鹿児島県農業開発総合センターでは、地域と栽培期間を選択すると、地力窒素レベルに応じた窒素発現量が推定できる表計算シート(通称「パックちゃん」、図3)を作成した。


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図3 地力窒素の値(mg/100g)を窒素施肥量(kg/10a)に換算する表計算シート、通称「パックちゃん」


 この表計算シートを基に、キャベツ等の露地野菜を対象とする、地力窒素測定結果から窒素施肥量を求めるための活用法をとりまとめた。なお、地温のみを考慮した簡易なシミュレーションであるため、各地域に適用させる際は、試験栽培等で確認してから活用するようにしてほしい。
 また「野菜作における可給態窒素レベルに応じた窒素施肥指針作成のための手引き(農研機構)」では地力窒素の簡易測定法の詳しい手順や、地力窒素レベルに応じた窒素施肥の応用事例が紹介されている。さらに、より手軽に操作可能なアプリが「日本土壌インベントリー(農研機構)」のアプリ集で公開されている。


おわりに
 近年の肥料原料価格の高騰により、いかに肥料費を削減するかが強く求められている。そこで、地力窒素測定により圃場の窒素肥沃度を把握し、堆肥施用などの土づくり計画に活用する。また、土壌診断によって土壌養分を総合的に把握し、各地域で公表されているリン酸やカリなどの減肥指針と併せて、総合的な施肥管理に取り組むことで安定した生産を図りながら、肥料費の削減、収益性の向上が期待できる。


▼参考
野菜作における可給態窒素レベルに応じた窒素施肥指針作成のための手引き


▼参考情報
畑土壌の可給態窒素簡易迅速評価法(2009年、農研機構)

野菜作における可給態窒素レベルに応じた窒素施肥指針作成のための手引き(2020年、農研機構)

● 施肥窒素量算出シート「パックちゃん」は鹿児島県農業開発総合センターウェブサイトからダウンロード可能

日本土壌インベントリーの畑土壌由来の可給態窒素見える化アプリ(農研機構)


執筆者
鹿児島県農業開発総合センター 生産環境部 土壌環境研究室
上薗 一郎


●月刊「技術と普及」令和5年5月号(全国農業改良普及支援協会発行)「連載 みどりの食料システム戦略技術カタログ」から転載