提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


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注目の農業技術



有機質資材の肥効見える化アプリ

2024年03月21日


技術開発の背景とねらい
 化学肥料使用量の低減、有機農業の取り組み面積拡大には、家畜ふん堆肥、植物油かす、緑肥など有機質資材の有効活用が重要である。しかし、有機質資材は化学肥料と異なり、土壌中で分解することにより作物の養分となる無機態窒素を生成する。
 この無機態窒素の生成量は、地温などの環境条件や資材ごとの分解特性など、複数の要因によって変動する。そのため、生産現場からは「同じ堆肥を施用しても、夏と冬で肥効の見積もりが難しい」「同じ牛ふん堆肥でも、副資材の種類や混合割合、堆肥化期間などによって無機化特性がさまざまで使いにくい」といった声があった。
 そこで、数分間の簡単な入力作業で10a当たりの窒素無機化量、すなわち化学肥料の減肥量を計算・出力する「有機質資材の肥効見える化アプリ」を開発した。


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図1 アプリによる肥効見える化のイメージ


アプリの使用方法
 アプリは、インターネット接続が可能なパソコンやスマートフォン上で利用できる。まず、日本土壌インベントリー内にある当アプリにアクセスし(図2)、表示されたデジタル土壌図で有機質資材を施用する圃場を指定する。


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図2 有機質資材の肥効見える化アプリQRコード


 次に有機質資材の種類をプルダウンメニューから選択し、10a当たりの現物施用量を入力する。そして最後に、有機質資材の施用日および収穫日を入力し、「資材由来の窒素量の計算」ボタンをクリックすることで、肥料として利用可能な資材由来の窒素量が表示される。
 有機質資材の種類としては、牛ふん堆肥や豚ぷん堆肥等の家畜ふん堆肥や、植物油かす等の市販有機質資材および緑肥が選択できる。
 図3は実際のアプリ画面で、熊本県内の農地に豚ぷん堆肥を10a当たり1t施用した場合、4月1日(施用日)から7月1日(収穫日)までの無機化量を計算した例である。期間中に無機態窒素が約5.3kg生成され、窒素減肥が可能であることを示している。


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図3 アプリの計算例


有機質資材窒素無機化モデル
 アプリでの予測には、農研機構が新たに開発した「有機質資材の窒素無機化モデル」が使用されている。この予測モデルは、地温や土壌水分の変化および有機質資材の分解特性の違いに対応したものである。
 特に有機質資材の分解特性に関しては、酸性デタージェント可溶有機態窒素(ADSON)という成分に着目した。ADSONとは、酸性デタージェント溶液という界面活性剤を含む硫酸溶液に溶解する有機態窒素画分であり(図4)、土壌中での有機質資材の窒素無機化量と高い正の相関があることが知られている。


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図4 有機質資材におけるADSON画分のイメージ


 実際に資材の種類ごとにADSONを比較すると(図5)、一般的に肥効が小さいと認識されている牛ふん堆肥のADSONは、肥効が大きい鶏ふん等と比べて小さくなっている。さらに、豚ぷん、鶏ふん堆肥よりも分解が速い植物油かすや魚かすのADSONは、非常に高い値となっている。
 すなわちADSONは、一般的な有機質資材の分解しやすさの認識と一致していることがわかる。


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図5 資材種類ごとのADSONの値。
箱ひげ図では、×が平均値、箱中の横線が中央値、箱の下端が第一四分位、箱の上端が第三四分位、ひげの両端は箱の長さの1.5倍以内にある最大値と最小値、ひげの外の白丸は外れ値を示す


アプリの留意点
①本アプリは、畑土壌条件で作成されたものであるため、水田のような湛水土壌には対応していない。湛水土壌で肥効を見える化する場合は「有機質資材の肥効見える化アプリ(水田版)」(URL後日公開)を使用する。
②有機質資材の特性値は平均値を使用しているため、ユーザーが施用する有機質資材との間に差が生じ、その分予測精度が低くなる。
③ 本アプリに基づき資材施用量を検討する場合、地方自治体や普及団体が設定する施用量の上限を超えないように注意が必要である。上限を超える施用では、土壌のカリ過剰や窒素による地下水汚染等の問題が生じる可能性がある。 


おわりに
 現在は営農支援ソフトを開発する事業者や肥料メーカー向けに、特定の有機質資材の特性値が入力できる、より予測精度が高いビジネス向けアプリを開発中である


▼参考
(研究成果)有機質資材と被覆尿素肥料の窒素肥効を見える化するウェブサイトを公開

執筆者
農研機構九州沖縄農業研究センター 暖地畜産研究領域 飼料生産グループ 研究員
望月 賢太


●月刊「技術と普及」令和5年3月号(全国農業改良普及支援協会発行)「連載 みどりの食料システム戦略技術カタログ」から転載