提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


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夏まきニンジンの有機栽培における太陽熱を利用した雑草対策の実用性

2024年03月19日

背景とねらい
 雑草は農業生産において作物の生育を阻害し、収量、品質を低下させる厄介者です。有機農業においても雑草対策が必要となりますが、その方法は手取り、管理機による中耕などに限られており、非常に重労働です。この除草作業を軽減させる方法として、太陽熱処理が挙げられます。太陽熱処理は主に病害虫対策として盛夏期のハウスで行われる技術ですが、雑草対策としても効果が期待でき有機栽培への活用も期待されます。そこで現地生産者ほ場において、盛夏期の露地栽培で太陽熱処理による雑草抑制、除草作業時間の短縮を目的に、有機ニンジン栽培でその効果を検討しました。


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 :太陽熱処理中  /   :太陽熱処理直後


太陽熱処理方法
 太陽熱処理は気温が高く、晴天が続きやすい盛夏期に行うのが最も効果的です。専用の機械が不要で、クワと透明ポリマルチ(以下マルチ)があれば手軽に行うことができます。手順は以下の通りです。


①施肥・耕うん後、凹凸のない畝を作ります。
②畝に散水し、湿らせます。
③隙間ができないよう畝にマルチをぴっちり張り、マルチの端を土で埋めます。もしほ場に灌水設備がない場合、降雨後にマルチ張りを行います。整形マルチャーで畝立て・マルチ被覆を一度に行う場合も、降雨後など土壌が適度に湿っている時に作業を行います。
④被覆期間1カ月を目安とし、その後マルチを剥がします。注意点としては、雑草抑制効果が失われないよう、マルチ除去後は畝表面を撹拌しないようにすることです。


太陽熱処理による雑草抑制効果と、除草時間の削減

 7~8月に太陽熱処理を実施した結果、深さ5cm程度までの地温は無処理よりも高くなりました(表1)。また、太陽熱処理区(以下、太陽熱区。除草1回)は、生産者体系区(除草3回)と比べても、雑草本数の減少が確認できました(図1)。除草に要した時間は、太陽熱区は生産者体系区よりも大幅に短くなりました(表2)


表1 各区、測定深における地温域別積算遭遇時間(2020年)
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図1 栽培期間中の雑草発生本数(2020年)

表2 現地ほ場における除草にかかる10a当たり積算作業時間(2020年、鳥取市)
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ニンジンに与える影響
 太陽熱処理後の土壌無機態窒素量に増加がみられました。これは有機物の分解が促進されたためと考えられます(表3)。太陽熱区のニンジンと生産者体系区のニンジンを比べると、上物収量は同等程度で、Lサイズ以上の本数は多い結果となりました(表4)


表3 太陽熱処理前後の土壌中無機態窒素量(2020年)
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表4 各区におけるニンジンの収量、品質(2020年)
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成果の活用および留意点
 盛夏期の太陽熱処理により、露地ニンジン栽培で雑草抑制効果と除草時間の大幅削減、収量増加が確認できました。そのため盛夏期の太陽熱処理により、その他の作目の有機栽培においても雑草対策、収量増に活用できると思われます。
 太陽熱処理後の土壌中無機態窒素量の増加は、一時的に収量の増加や品質の向上につながりますが、土壌有機物を消耗させるため、消耗した分の新たな有機物の投入が必要になることに注意が必要です。

執筆者
鳥取県農業試験場 水田高度利用研究室
研究員 松村和洋