提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


農業のポータルサイト みんなの農業広場

MENU

注目の農業技術



家畜・家禽へのアミノ酸バランス改善飼料による温室効果ガス削減

2024年03月14日

技術の概要(アミノ酸バランス改善飼料とは)
 家畜・家禽に給与する飼料にはタンパク質が含まれているが、その含量を1~2%ポイント程度下げ、代わりに不足するアミノ酸を添加することで、アミノ酸バランスを調整することができる。これによりタンパク質が効率良く利用されるため無駄に排出される窒素が低下し、生産性に影響を与えることなく、排せつ物に含まれる窒素量と強力な温室効果を持つ一酸化二窒素量のどちらも減らすことができる。


肉用牛へのアミノ酸バランス改善飼料給与
 牛におけるアミノ酸の評価は、ルーメン内のタンパク質分解の違いで区分けされている。飼料の分解性タンパク質はルーメン内で主に微生物タンパク質になり、下部消化管で微生物由来のアミノ酸として吸収される。また、非分解性タンパク質は下部消化管で飼料由来のアミノ酸として吸収される。したがって、肉用牛に吸収されるアミノ酸は微生物由来アミノ酸と飼料由来アミノ酸を合わせた代謝アミノ酸として評価されている。
 一方で、肉用牛ではアミノ酸に関する研究が少ないため、アミノ酸要求量を基準にした飼料設計は難しく、肉用牛の飼料中粗タンパク質(CP)含量を減らしたときに不足するアミノ酸の種類と量は分かっていない。そこで、肉用牛のアミノ酸バランス改善飼料の設計では、肉用牛で第1または第2制限アミノ酸と考えられているリジンまたはメチオニンについて、慣行飼料の代謝リジンと代謝メチオニンと同量になるように設計することが考えられている。

 ホルスタイン種去勢牛の肥育全期間に、慣行飼料よりもCP含量が3%ポイント低いアミノ酸バランス改善飼料を与えたところ、CP摂取量は減少したが、飼養成績、枝肉成績、肉質に影響は認められず、ふん尿窒素排せつ量が15%以上低下し(図1)、堆肥化過程で発生する一酸化二窒素発生量も削減できる(図2)


20240304_siryou_z1.jpg
図1 ホルスタイン種去勢牛の窒素排せつ量に及ぼすアミノ酸バランス改善飼料の影響

20240304_siryou_z2.jpg
図2(参考)ホルスタイン去勢牛へのアミノ酸バランス飼料給与

 実証試験として民間牧場において肥育後期にアミノ酸バランス改善飼料を与えたとき、枝肉重量や肉質に関わる評価値は慣行飼料と同等であることが確認された。したがって、肉用牛におけるホルスタイン種去勢牛のアミノ酸バランス改善飼料の給与により、生産性に影響せず、窒素排せつ量や一酸化二窒素発生量を削減できる(Kamiya et al., Animal Science Journal, 2020. https://doi.org/10.1111/asj.13438 ; Kamiya et al., Animal Science Journal, 2021. https://doi.org/10.1111/asj.13562)。
これにより、温室効果ガス排出削減技術として普及が進められている。なお、黒毛和種や交雑種などのアミノ酸バランス改善飼料給与においても、同様の結果が得られており、現在、データを積み重ねている。


養豚におけるアミノ酸バランス改善飼料
 飼料中のCP含量を1~2%ポイント程度下げ、リジンやメチオニンなど不足するアミノ酸を添加してバランスを整えることで、豚の体内で無駄に代謝されるアミノ酸が減り、その結果、尿中に排せつされる窒素が58%低下する。窒素排せつ量が低下することで、汚水浄化処理過程で発生する一酸化二窒素を40%削減できた(農研機構標準作業手順書(SOP)「養豚におけるアミン酸バランス改善飼料の設計と給与効果」)。


20240304_siryou_z4.jpg
(参考)肥育豚へのアミノ酸バランス飼料給与
肥育豚用飼料の粗タンパク質含量を1ポイント程度下げ、不足するアミノ酸を添加することでアミノ酸バランスを調整。それにより無駄になるアミノ酸が減り、生産性に影響を与えずに排せつ窒素と強力な温室効果を持つ一酸化二窒素を削減できる


 養豚用配合飼料中に使用されるアミノ酸使用量および飼料中のCP含量の経年的な変化が荻野らによって示されている(日本畜産学会報91: 281-288)。これを読むと、養豚用配合飼料中のCP含量は年々低下傾向にあり、アミノ酸バランス改善飼料が普及してきていることが推察される。
 農研機構畜産研究部門では、豚の生産性を落とさず、さらにCPの利用効率を上げ、窒素排せつ量を低減するための研究に取り組んでいる。子豚、肥育前期・後期豚のリジン要求量を正確に求め、その数値を基に豚にとって理想的な飼料中アミノ酸バランスを検討している。
 2022年度に必須アミノ酸であるイソロイシンが飼料添加物としての指定を受けた。飼料中のCP含量を下げたときに不足するアミノ酸にイソロイシンを添加できるようになれば、さらに窒素排せつ量を低下でき、温室効果ガスの削減が可能になると考えられる。


採卵鶏におけるアミノ酸バランス改善飼料
 家禽の場合、悪臭などの対策の一つとして、窒素排せつ量を減らすことを目的としたCP含量の低減は以前から行われてきた。家禽のタンパク質要求量はアミノ酸レベルで明らかにされており、飼料中CP含量の不足分をアミノ酸で添加する飼料設計が可能である。先行してブロイラーでは、排せつ物の堆肥化時に排出される温室効果ガスを削減する飼料として、アミノ酸バランス改善飼料の提案がなされてきた。


 そこで今回は、同様の考え方で採卵鶏について試験を行った。出荷日齢が50日を切るブロイラーと異なり、採卵鶏は約150日齢で卵を産み始め、550~600日齢くらいまで産卵を続けるため、給与試験期間が非常に長いところが特徴である。また、給与試験で得られた排せつ物を集め、続けて堆肥化試験まで行ったことが本試験のポイントになる。

 茨城県畜産センターではジュリア種を供試し、200~300日齢の産卵前期試験および400~600日齢まで産卵中後期試験を行った。飼料CP含量は産卵前期で原物当たり対照区19%、試験区17%、産卵中後期は原物当たり対照区16%、試験区14%に設定し、産卵前期、後期ともに試験区は対照区よりCP含量を2%ポイント下げた。その上で試験区の飼料には採卵鶏のアミノ酸要求量を満たすため、リジン、メチオニン、トリプトファンを添加した。その結果、試験区では対照区と比較し、産卵前期・後期とも採食量や産卵成績に差は認められず、産卵前期では1羽当たりの窒素排せつ量は2割ほど減少した。

 そして期間中の排せつ物を35日分収集して堆肥化試験を行ったところ、対照区と比較して試験区では一酸化二窒素が1割強、メタンが4割程度減少した(図3)。また一酸化二窒素の前駆物質であり、悪臭物質とも認識されているアンモニアの低減も認められ、アミノ酸バランス改善飼料の温室効果ガス削減への有効性を明らかにした。


20240304_siryou_z5.jpg
図3 産卵前期排せつ物の堆肥化過程における一酸化二窒素、メタン、アンモニアの排出量


 肉用牛と同様に一般農家において実証試験を行ったところ、アミノ酸バランス改善飼料の給与は産卵成績などの生産性に影響はなく、窒素排せつ量も低減できることを確認した。実証試験での結果は現在取りまとめており、今後改めて報告する予定である(飯尾ら,日本畜産学会報, 2021. https://doi.org/10.2508/chikusan.92.485;IIO et al., Animal Science Journal, 2023. https://doi.org/10.1111/asj.13853)。


 研究所や実証農家の試験では、試験用の飼料を調製して給与している。その際には、タンパク質要求量やアミノ酸要求量を満たすように飼料設計をおこなっている。実際の農家で飼料調製をおこなうのは難しいと推察され、また、生産性を損ねず、飼料価格が上がらないように飼料調製するためには、専門家の助言が必要である。したがって、アミノ酸バランス改善飼料を給与したい場合には、飼料メーカーや飼料用アミノ酸を販売しているメーカーに相談いただきたい。


 一酸化二窒素排出削減については、温室効果ガスの排出削減・吸収量をクレジットとして国が認証するJクレジットが制度化されている。クレジットの名前が付いている通り、温室効果ガスの削減や吸収分を売買できる制度である。
 アミノ酸バランス改善飼料による排せつ物処理過程での一酸化二窒素削減は、Jクレジットの方法論として認められている。登録当初、対象とする家畜は豚とブロイラーのみだったが、現在は乳牛と肉用牛が追加された。農研機構では、採卵鶏の追加を目指して取り組んでいる。


執筆者
農研機構畜産研究部門 食肉用家畜研究領域 上級研究員
神谷 充

農研機構畜産研究部門 研究推進部長
田島 清

農研機構畜産研究部門 乳牛精密管理研究領域 グループ長
野中最子


●月刊「技術と普及」令和5年4月号(全国農業改良普及支援協会発行)「連載 みどりの食料システム戦略技術カタログ」から転載