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キュウリモザイク病を引き起こすCMVとWMVの 同時防除が可能な混合ワクチン接種苗

2024年02月22日


キュウリモザイク病について
 キュウリモザイク病は、アブラムシが媒介する4種類のウイルス(CMV:キュウリモザイクウイルス、WMV:スイカモザイクウイルス、ZYMV:ズッキーニ黄斑モザイクウイルス、PRSV:パパイア輪点ウイルス)によって引き起こされる。
 主な症状には葉のモザイク症状(写真1、2)や奇形果等があり、ひどい場合には株が枯死する(写真3)。CMVおよびWMVの感染では、葉に明確な症状が認められないことがあり、発見が遅れて感染が拡大し、大きな減収となるケースもある。


20240206_cucmbervirus_i1.jpg  20240206_cucmbervirus_i0.jpg
 :写真1 CMVに感染したキュウリ葉
 :写真2 CMVおよびWMVに混合感染したキュウリ葉


20240206_cucmbervirus_i2.jpg
写真3  CMVおよびWMV発生圃場における混合ワクチン接種株
(奥)と無接種株(手前)


植物ワクチンの開発
 キュウリモザイク病をはじめとしたウイルス病は、いったん感染すると薬剤等による治療ができないため、感染の予防が重要となる。そこで用いられる防除技術が「植物ワクチン」で、植物があるウイルスに感染すると、その後近縁なウイルスに感染しにくくなる現象(干渉効果)を利用する。毒性の弱いウイルスをあらかじめ植物に接種しておくことで、毒性の強いウイルスへの感染を防ぐことができる。
 京都府では、過去にZYMVの植物ワクチンを開発したが、キュウリの露地栽培ではCMVおよびWMVによる混発被害が確認されていた。そこで、宇都宮大学、宮城県、長野県および株式会社微生物化学研究所と共同でCMVおよびWMVの混合ワクチンを併せて開発し、実用化に向けて取り組んだ。
 その結果、開発した混合ワクチンを接種した区では、夏秋栽培、抑制栽培ともにキュウリモザイク病の発病株率が80%以上低下した(表)。また生産現場でも、無接種区でCMVおよびWMVによる被害が見られる条件において、接種区では被害を抑制した(写真4)。なお、3年間の試験期間中、混合ワクチンによる薬害および収量への影響は認めなかった。


表 混合ワクチン接種苗によるキュウリモザイク病の防除効果
20240206_cucmbervirus_h1.jpg

20240206_cucmbervirus_i3.jpg
写真4  混合ワクチン接種区(上)では葉が大きく、生育も旺盛であった。無接種区(下)ではCMV、WMVの被害により生育が抑制されていた

普及へ向けた取り組み
 当センターでは普及センターと協同で、展示圃を設けての栽培試験、生産者への説明会等を行い、混合ワクチン接種苗の導入を進めている。防除効果に加え、通常苗と比較した初期生育の違い等、接種苗の特性を生産者に示し、円滑な導入を推進している。
 また、現在利用できる接種苗には①前述のZYMV1種ワクチン接種苗、②本稿で紹介したCMVおよびWMVの2種混合ワクチン接種苗、③①と②のワクチンを併用した3種混合ワクチン接種苗がある。キュウリモザイク病を確実に防除するためには、発生するウイルス種に対応した接種苗を利用する必要がある。このため、地域ごとのウイルスの発生状況を調査し、実態を踏まえた普及を図っている。
 なお、令和3年の接種苗使用実績は、3種類合計で府内約6000本、全国約50万本となっている。府内では、今後もウイルスが多く発生していた地域を中心に、引き続き発生状況調査等、接種苗導入に向けた取り組みを進める予定だ。
 接種苗の導入は、媒介虫であるアブラムシをターゲットとした薬剤散布回数の低減につながることから、みどりの食料システム戦略を実現する技術のひとつとして、今後さらなる普及に努めていきたい


使用にあたっての留意点
(1)CMVおよびWMV混合ワクチン接種苗(商品名:ウイルスガード苗CW)として購入可能で、混合ワクチンのみの購入は不可。
(2)2種混合ワクチンによる、ZYMVおよびPRSVに対する防除効果は不明であるため、圃場で発生しているウイルス種を明らかにした上で導入する。
(3)いずれの品種でも利用できるが、希望する品種への接種は受注可能か否か確認が必要。
(4)ウイルスへの感染を完全に防ぐものではないため、定植時の粒剤施用、状況に応じた薬剤散布等、アブラムシの防除が必要。
(5)ワクチン接種苗は通常苗よりも多くの肥料を要するため、施肥量を増やす必要がある。


謝辞
 本成果は、農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業「キュウリ及びズッキーニに発生する複数種ウイルスを完全防除する混合ワクチンの開発」(2015~2017年)の共同研究によって得られたものである。プロジェクトの実施にあたり、支援をいただいた関係機関の皆様方に厚くお礼申し上げる。


執筆者
京都府農林水産技術センター 生物資源研究センター 応用研究部 主任
門馬 悠介


●月刊「技術と普及」令和5年1月号(全国農業改良普及支援協会発行)「連載 みどりの食料システム戦略技術カタログ」から転載