メタン発酵の副産物である消化液の液肥利用
2024年02月21日
技術の概要
メタン発酵は、嫌気性微生物の働きを利用して家畜排せつ物、食品廃棄物、汚泥等の有機物から再生可能エネルギー源である、メタン(CH4)を主成分とするバイオガスを取り出す技術である。メタン発酵では、バイオガスを回収した後に原料とほぼ同量の「消化液」が生成される(写真)。
消化液は窒素、リン酸、カリ等の肥料成分を含み、化学肥料の代わりに利用できる有機質肥料であることから、近年では「バイオ液肥」とも呼ばれている。
消化液を地域で適切に利用することができれば、再生可能エネルギーの生産に加え、地域に賦存している資源を有効利用する循環型社会の形成や、温室効果ガス排出量の削減に貢献できる持続可能性の高い取り組みとなる(図1)※1)。
消化液の一般的な利用プロセスを図2に示す。一時的に貯留槽で貯留した後、バキューム車などで圃場まで運び、液肥散布車で水田、畑地、牧草地に散布する。消化液の輸送・散布作業は一般的にメタン発酵事業者が担い、散布サービス込みで耕種農家に提供される。
技術導入の効果1:化学肥料の使用量の削減
さまざまな原料由来の消化液の成分を表に示す。消化液の特徴は、含有窒素の約半分が速効性の肥料成分であるアンモニア態窒素であることである。このため、硫安などの速効性の化学肥料と同様の利用が可能である。
またメタン発酵において、原料に含まれる肥料成分の窒素、リン酸、カリはほぼ全量が消化液に移行するため、その成分はメタン発酵原料の成分組成を反映する。例えば乳牛ふん尿が主原料の場合、乳牛ふん尿の成分を反映して、窒素やカリに対してリン酸の含有量が少ない消化液となる。
消化液を土壌表面に施用すると、消化液中のアンモニア態窒素の一部が揮散する。揮散量は施用後数時間が特に多くなる。しかし、施用後速やかに土壌と混和する、あるいは土中に施用するといった、アンモニア揮散を抑制できる施用方法を採用することにより、消化液に含まれるアンモニア態窒素の多くを速効性成分として利用でき、アンモニア態窒素を基準とした施肥設計が可能である。
耕種農家にとっては、消化液を化学肥料に代わる速効性肥料として利用することにより、化学肥料の使用量と費用の削減につながる。
技術導入の効果2:コスト削減
消化液を液肥として利用できない場合は、排水処理をして河川放流する必要があるが、消化液として利用することは排水処理に比べて低コストであるため(例:排水処理費用は5000円/t、液肥利用時の散布費用は2000円/t)※2)、消化液を散布可能な農地が多い農村地域においては、液肥利用は有力な選択肢となる。
また、メタン発酵事業者は液肥利用を採用することにより、施設運営コストの削減が見込めることから、消化液の提供価格は通常の肥料に比べて安価に設定される。そのため耕種農家にとっては、肥料コストの削減や肥料散布労力の節減につながる。
導入の留意点
消化液は耕種農家が日頃使用している肥料とは異なるため、栽培試験、栽培暦・パンフレットの作成、液肥利用者協議会(消化液の利用技術の普及や利用調整等を行う組織)の設立等、普及促進のための取り組みを行う必要がある。
このような取り組みはメタン発酵施設ごとに実施されることが多いが、消化液の利用が一般的になっている北海道十勝地方では、普及組織がパンフレット「バイオガスプラント消化液の有効利用に向けた試験結果」を作成するなど、地域としての取り組みが始まっている。
技術の詳細は、引用文献※1)および※3)に記載されているので、参照されたい。
注
※1)中村真人(2020):農研機構技報、農村地域のおけるメタン発酵を中核とした資源循環システムの構築、4、30-33、
※2)浅井真康(2020):家畜排せつ物のメタン発酵によるバイオガスエネルギー利用、令和2年度畜産環境シンポジウム資料
※3)経済産業省資源エネルギー庁(2022):メタン発酵バイオガス発電における人材育成テキスト
執筆者
農研機構 農村工学研究部門 資源利用研究領域 地域資源利用・管理グループ
上級研究員 中村 真人
主任研究員 折立 文子
●月刊「技術と普及」令和4年9月号(全国農業改良普及支援協会発行)「連載 みどりの食料システム戦略技術カタログ」から転載