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長期草生栽培による、モモ園の「土壌有機物蓄積」と「果実生産期間の延長」

2024年02月15日

技術の概要
 果樹園の地表面に雑草やイネ科牧草などを生やして管理する「草生栽培」は、有機物の生産・供給、土壌理化学特性の改良などの土づくり効果が期待される。
 山梨県内のモモ園では、土づくり効果、土壌流亡の防止、降雨後の作業性向上などを目的に、雑草草生栽培の導入が広く進んでいるが、長期の雑草草生栽培によるモモ生産への影響は、明らかでない部分が多かった。そこで、長期の雑草草生栽培が、土壌、果実生産および樹体生育などにどのような影響を及ぼすのかを明らかにするため試験を行った。
 その結果、地表面を雑草などで被覆しない清耕栽培と比べて、雑草草生栽培では土壌中に有機物や炭素が蓄積されることと、樹齢を経ても収量や樹勢が維持されて果実生産期間が延びることが明らかになった。


調査方法
 調査は、山梨県果樹試験場の場内圃場(土壌の種類:粘土質土壌)で、1997年から2014年までの18年間実施した。品種は「白鳳」とし、1997年に定植した。
 試験区は、地表面を草生栽培で管理する「草生区」と、清耕栽培で管理する「清耕区」を設置した(写真1、2)


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写真1 草生栽培。イネ科雑草が中心


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写真2 清耕栽培。定期的に除草材を散布


 草生区の地表面管理は、イネ科雑草を中心とした全面雑草草生栽培とし、草刈りは草丈30cmを目安に、年間4~6回程度行った。清耕区は、定期的に除草剤を散布して清耕状態で管理した。
 なお、窒素は両試験区ともに同量を施用して、樹齢に応じて増やした(表1)


表1 樹齢別の窒素施用量(草生区、清耕区に共通)
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効果
(1)土壌中の有機物含有量と炭素含有量が増加
○土壌中の有機物含有量の推移

 草生区と清耕区における土壌中の有機物含有量の推移は、図1のとおりである。


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図1 土壌中有機物含有量の推移(深さ0~30cm、1997~2014年)


 試験期間を通した土壌の表層0~30cm部分に含まれる有機物量は、草生区は定植時の5.7t/10aから、試験終了時の12.6t/10aと大きく増加した。それに対して清耕区は、定植時の5.2t/10aから試験終了時の6.3t/10aと微増であった。
 この結果、草生区は清耕区よりも土壌中の有機物含有量が増加し、特に、草生栽培の期間が10年を超えると、土壌中の有機物含有量が急激に増加する傾向が見られた。
 なお、土壌中の炭素含有量も、有機物含有量と同様に、草生区で大きく増加した(データ省略)


○土壌に投入される炭素量
 次に、土壌に投入される炭素量(表2)は、草生区は309.3kg/10a/年、清耕区は155.6kg/10a/年と推定され、草生区で多かった。これは、刈り草によって多量の炭素が園地に投入されるためである。
 以上から、土壌中の有機物含有量や炭素含有量が増加したのは、長く雑草草生栽培を続けたことにより、刈り草由来の有機物や炭素が土壌中に蓄積されたためと考えられる。


表2 土壌に供給される炭素量 (kg/10a/年、2012~2014年の平均値)
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(2)収量や樹勢の維持と果実生産期間の延長
○草生区と清耕区の収量の推移

 草生区と清耕区の収量の推移は、図2のとおりである。
 収量は、草生区と清耕区ともに樹齢10年生前後で3t/10aの収穫が可能であった。その後樹齢を経ると、草生区は収量を維持する傾向が、清耕区は収量が減少する傾向が見られた。試験期間の累計収量は、草生区は29.0t/10a、清耕区は27.4t/10aであり、草生区で多くなった。
 なお、樹齢15年生時に収量が減少したのは(図2)、樹勢回復のために着果調整を行ったためである。


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図2 収量の推移と累計収量(1997~2014年)


○樹冠面積の推移
 次に、樹冠面積の推移(図3)は、草生区は、幼木時には樹冠の拡大が清耕区よりやや劣ったが、樹齢6年生を経過した時期からは清耕区と同等となり、樹齢を経ても樹冠面積は維持され、樹勢を維持する傾向があった。一方、清耕区は樹齢を経るに従い樹冠面積が縮小し、樹勢が低下する傾向があった。
樹冠:樹木上部の枝や葉が集まった部分を指す


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図3 モモ樹の樹冠面積の推移(1997~2014年)


○根の発生状況
 さらに、草生区と清耕区の樹齢18年生時点の細根の発生状況を比較すると、草生区は細根の発生が旺盛なことが確認された(写真3、4)


20240214_momo_i3.jpg  20240214_momo_i4.jpg
左 :写真3 草生区の細根
右 :写真4 清耕区の細根


 草生区で樹齢を経ても収量や樹勢が維持された理由は、刈り草を園地に還元したことで、土壌改良が図られて樹勢を維持しやすくなり、果実生産能力も維持されたからと推測される。その結果、草生区では果実生産期間が清耕区よりも長くなり、累計収量が増加したと考えられる。


導入の留意点
 草生栽培では、樹体と草の「養水分の競合」に注意しなければならない。養水分の競合により、果実品質や樹勢が低下する可能性がある。
 特に幼木時は、モモの根域が浅く、生育への影響を受けやすいので、樹冠周辺(半径1.5~2.0m)を清耕にするかマルチを敷くなどして部分草生栽培にすると、養水分の競合が緩和される。
 なお、養水分の競合が原因で窒素欠乏の症状(新梢生育の抑制や葉の黄化など)が現れた場合は、早めに尿素などの葉面散布で対応する。ただし、施肥が遅くなると十分な回復効果が得られないだけでなく、窒素が遅効きし、新梢の徒長や果実品質の低下につながるので、注意する。
 また、草生栽培では、スギナ等の難防除雑草が優勢になる場合もあり、注意を払う必要がある。


その他
 草生栽培の刈り草による有機物供給量を牛ふん堆肥に換算すると、およそ700~1200kg/10aに相当する(イネ科雑草を中心とする草種の場合)。
 この技術は、モモ栽培が可能な地域に適応できると考えられる。導入する草の種類や管理方法は、地域の状況を十分に検討して決定してほしい。技術の詳細は、参考URL(長期草生栽培によるモモ園の土壌有機物蓄積と果実生産期間の延長)も参照していただきたい。


問い合わせ先
山梨県果樹試験場環境部生理加工科
電話:0553-22-1921


▼参考URL
長期草生栽培によるモモ園の土壌有機物蓄積と果実生産期間の延長


執筆者
山梨県果樹試験場 環境部 研究員 
加藤 治


●月刊「技術と普及」令和4年8月号(全国農業改良普及支援協会発行)「連載 みどりの食料システム戦略技術カタログ」から一部改編の上、転載。