ジャンボ落花生「おおまさりネオ」の育成
2021年11月30日
はじめに
千葉県は、昭和2年から落花生の品種改良を開始し、国の育種指定試験事業を経て、現在では国内唯一の落花生専門の公設試研究室を八街市に設置しています。平成13年からゆで落花生用のジャンボ落花生品種「おおまさりネオ」の育成を開始し、平成29年5月に品種の登録を出願しました(品種登録出願番号32136号)。令和3年からは県内での一般栽培が始まっています。
育成の背景
ゆで落花生は掘りたての新鮮な莢を塩ゆでして食べる、落花生産地ならではの食べ方として親しまれてきました。現在は、より多くの方に楽しんでいただくために、冷凍品やレトルト加工された形態で店頭販売されています。ここ数年は通信販売の普及によって、より広い地域に消費が広まっています。
現在のゆで落花生の主力品種は、「おおまさりネオ」の親である「おおまさり」と「郷の香」です(写真1)。「おおまさり」は莢や可食部である子実が極めて大きく、また強い甘味を持ち、食味に優れることから消費者の人気があります。一方、栽培面では、株が大きく収穫がしにくい、白絹病や茎腐病に弱いという課題があり、生産者からは新しい品種の育成が求められていました。
このような背景のもと、「おおまさり」並みの極大莢、良食味であるとともに、「おおまさり」の栽培面での課題を克服した品種を目標として育成したのが、「おおまさりネオ」です。
「おおまさりネオ」の特徴
「おおまさりネオ」は母本に「おおまさり」を、父本にはゆで豆用で草型が立性の品種「郷の香」(写真1)を用いて平成13年に交配し、集団養成、個体選抜、系統育成、現地適応性試験等を経て、平成29年に品種の登録を出願した品種です。
「おおまさりネオ」は草型が立性で、半立性の「おおまさり」と比べ株が横に広がらず、また最長分枝長も「おおまさり」と比べ短いです(写真2、表1)。株がコンパクトで莢も株元にまとまっており、収穫時の作業性が「おおまさり」よりも優れ、白絹病、茎腐病の発生率は「おおまさり」よりも低いことから、栽培しやすくなっています(図1)。
写真2 「おおまさりネオ」(左)と「おおまさり」(右)の草姿
表1 新品種「おおまさりネオ」と主要落花生品種の生育・収量の比較
注
1)平成26~28年における生産力検定試験(5月22日~23日播種)の平均
2)元肥は窒素、リン酸、カリを10a当たりの成分量でそれぞれ3kg、10kg、10kg施用
株間30cm、条間45cmの2条マルチ栽培
3)莢実重、子実重、上実百粒重は乾燥させた莢、子実を計測
図1 異なる播種期における病害発生株率(平成26~28年)
注
1)平成26~28年における生産力検定試験(標準播種5月22日~23日播種、晩期播種6月15日~16日播種)の平均
2)元肥は窒素、リン酸、カリを10a当たりの成分量でそれぞれ3kg、10kg、10kg施用
株間30cm、条間45cmの2条マルチ栽培
また、上実百粒重は「おおまさり」よりやや小さいものの、「ナカテユタカ」や「郷の香」と比べると明らかに大きく、収量やゆで豆用とする際の製品率、ゆで豆としての食味は「おおまさり」と同等です(表1、表2、図2)。
図2 レトルトゆで莢用適性試験の結果(平成26年)
注
1)平成26年5月29日播種(八街市)。元肥は窒素、りん酸、加里を10a当たりの成分量でそれぞれ3kg、10kg、10kg施用。株間30cm、条間45cmの2条マルチ栽培
2)横軸の開花期後日数は開花期から収穫までの日数を示す
3)ゆで豆製品重はレトルトゆで落花生用の出荷基準を基に選別調査した結果
4)図中の丸印はゆで豆製品率を示す
表2 食味官能評価の結果(平成27年)
注
1)パネル数は29名で、標準品種を「郷の香」とし、標準品種を3.0とした時の比較値(1~5)を示した
2)圧力鍋で加圧後15分間塩ゆで(塩分濃度2.0%)したものを冷凍し、食味評価前日に自然解凍して、むき実にしたものをサンプルとした
「おおまさりネオ」の栽培方法
草型が立性になったことにより、栽植様式も「おおまさり」と異なります。「おおまさり」は分枝長が長いことから、現地栽培での株間は他の落花生品種よりも広く50cmで、1条マルチを用いる事例が多く見られます。「おおまさりネオ」は株がコンパクトであるため、落花生栽培で一般的な株間30~40cm、条間45cmの2条マルチでの栽培が可能です。
播種時期の目安は4月下旬から6月中旬です。4月下旬に播種した場合、不織布により開花期まで被覆することで、無被覆と比べ収穫時期を1週間ほど早めることができます。土壌が乾燥していると空莢が発生しやすくなるので、開花期後20日以降は圃場の乾き具合をみて、定期的に潅水します。収穫は開花期後90日を目安とし、収穫前に試し掘りをし、莢の網目等を確認して適期を判断します。
ゆで豆用として生莢を出荷する場合は、生鮮野菜と同じように流通における鮮度保持に留意する必要があります。一日に収穫・調整できる量が限られることから、収穫時期が分散するよう、播種時期を少しずつずらしながら計画的に播種することも重要となります。
【参考】千葉県のホームページで公開している栽培マニュアル等の情報
▼『落花生新品種「おおまさりネオ」の特徴と栽培方法』(令和3年)
▼『技術指導資料「おおまさりネオ」の栽培方法』
執筆者
千葉県農林総合研究センター
落花生研究室
青栁伸之介