会津余蒔胡瓜-「会津伝統野菜」は人と種をつなぐふるさとの味
2021年06月11日
特徴と由来
●福島県会津地方
「会津伝統野菜」の一つに選定されている会津余蒔(よまき)胡瓜は、江戸時代から蔬菜の産地として知られる会津若松市門田町飯寺地区周辺で栽培されてきたキュウリである。「余蒔」には、余った種子を蒔いて育てたという説や、農家の女性が農作業を終え、余った時間に蒔いて育てたという説がある。かつては6月以降に畑に直接種子を蒔く栽培法だったが、現在はそれより早い4月頃に播種、5月中旬以降に定植し、6月下旬頃から収穫が開始される。
果実はやや短形で、果色は全体的に淡緑色で霜降り状の模様となるのが特徴で、約18cmの長さで収穫した果実は皮が軟らかくて果肉の歯切れもよく、食味が優れる。さらに成長して20cm以上の長さで収穫すると、果皮はやや硬くなるものの果肉の食感は変わらず、キュウリ特有の香りが増す。
収穫期の会津余蒔胡瓜
利用方法
一般的なキュウリと比べて果皮が柔らかく、えぐみや青臭さが少ないため、キュウリが苦手な人でも食べやすい。昔ながらの食べ方として酒粕漬けなどの漬物のほか、加熱調理にも適し、油との相性もよいことから天ぷらや肉と合わせた炒めものにしてもおいしい。
会津若松市内の飲食店や温泉宿では丸かじりに加え、ドレッシングに加工されるなどさまざまな形で提供されている。
温泉旅館で提供される会津余蒔胡瓜
産地の動向
会津余蒔胡瓜は収量性が低いなどの理由により、昭和20年頃に一度栽培が途絶えてしまった。その後、平成15年にジーンバンクに保存されていた種子を県農業試験場が譲り受け、本来の形状と近いものを選抜・固定し、その種子を入手した会津地方の生産者などの努力により、平成20年、約六十数年ぶりに栽培が復活した。
復活当初は一般的なキュウリと比べて見た目がよくないため、なかなか売れない状況であったが、伝統野菜のブランド化を確立させ、その種子を未来につなげることを目指す組織「人と種をつなぐ会津伝統野菜」会長の長谷川純一氏を中心とした取り組みにより、会津若松市内の学校給食や県内外の飲食店での利用が徐々に増加し、道の駅や会津地方の一部スーパーなどでも販売されるようになった。
学校給食の献立(中央奥が会津余蒔胡瓜の香り漬け)
また、地元の農業高校が会津伝統野菜の栽培から販売・PRに至るまで積極的に取り組みながら、同時に採種や苗の生産といったシードバンクとしての役割も果たしている。
現在、会津余蒔胡瓜は会津若松市や会津坂下町などで栽培されており、最近では若手の新規就農者の中でも栽培してみたいという声があがっている。
東海林聡美
福島県会津農林事務所 農業振興普及部 技師
●月刊「技術と普及」令和元年12月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載