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毛馬胡瓜-150年の歴史を持つ「なにわの伝統野菜」が復活

2021年06月08日

特徴と由来

●大阪府南河内地域

 毛馬(けま)胡瓜は、毛馬村(現在の大阪市都島区毛馬町近辺)で江戸時代から栽培されていた半白系の黒いぼキュウリであり、文久3年(1863年)の「大阪産物名物大略」にも記載されている。早熟栽培が行われていたとされるが、どのような栽培法であったのかは記録が残っていない。
 果実は長さ約30cm、直径約3cmと細長い形状で、果か 梗こう部は淡緑色であるが、果頂部から約3分の2は淡緑白色となり、収穫適期には全体的にやや黄色味がかる。歯切れがよくパリパリとした食感があり、独特の苦みがあるため漬物用として珍重され、特に奈良漬けは他品種の2倍ほどの価格で取引されたといわれている。
 大正6年(1917年)の「農事調査」では、東成郡(現在の大阪市)と中河内郡(現在の東大阪市)で約89haの栽培面積があったと記載されている。しかし食生活の変化等により、昭和40年代頃から緑色が鮮やかで果皮の薄い白いぼ系品種に取って代わられ、毛馬胡瓜は自家用を除いて市場から姿を消した。

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毛馬胡瓜の荷姿

産地の動向

 大阪府では大阪独自の野菜の復活・保存と振興を図るため、平成17年度に「なにわの伝統野菜認証制度」を発足させた。おおむね100年前から大阪府内で栽培されてきた野菜18品目が認証されており、毛馬胡瓜もその一品目である。
 南河内農と緑の総合事務所農の普及課では、関係機関・団体と連携してなにわの伝統野菜の復活と振興に取り組んできた。その結果、毛馬胡瓜の現在の主要な産地は河内長野市、河南町、千早赤阪村等の南河内地域に広がり、栽培面積は約40a(平成30年産)となった。他に大阪市、堺市等でも栽培されている。生産物は近隣の農産物直売所や漬物業者等に出荷されている。

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曲がり果防止のため竹で果実を挟む(右)、果実に重りをつける(左)

栽培方法

 3月下旬に播種、5月上旬に定植し、6月中旬から7月中旬までが収穫期である。現在一般に栽培されているキュウリに比べ、つるが細く、節間が長く、葉は小型であるが、栽培管理は一般のキュウリとほぼ同じである。収量は1株当たり約15本、1a当たり約1800本と、一般の白いぼキュウリより少ない。
 主枝には雌花がほとんど着花せず、主に側枝の第1・第2節に着花する特性があるため、多収を確保するにはこまめに整枝・摘心を行う必要がある。また果実が細長く、曲がり果の発生が多いため、着果後すぐの果実に10g程度の重りをつけたり、竹やプラスチックパイプ等で挟むなどすると秀品率が上がる。

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毛馬胡瓜の栽培風景

食べ方

 前述のように漬物(奈良漬け、粕漬け、浅漬け等)に使うほか、パリパリした食感と果皮の淡緑色を生かすような、なます、酢だこ、鰻ざく、寒天よせ等に用いると、見た目にも涼しげで爽やかであり、夏の料理に最適な食材となる。

執筆者
林兵弥
大阪府南河内農と緑の総合事務所 農の普及課 総括主査

●月刊「技術と普及」令和元年12月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載