高性能・シンプル構造のサトイモ分離機を開発
2021年05月31日
1.はじめに
サトイモは古くから全国各地で栽培されていますが、栽培面積は1980年の約3万2000haをピークに減少し続け、近年は1万2000ha程度で推移しています。
生産の減少は、食生活の多様化や海外からの輸入増加による単価下落などが理由としてあげられますが、単価下落に見合う機械化や省力化技術開発が遅れていたことも一因と考えられます。特に、収穫時に親いもから子いもを切り離す分離作業については、その多くを未だ手作業に依存しています。主力品種の「石川早生丸」では、親いもの外縁に放射状に子いも、孫いも、ひ孫いもが密着して着生する特性があり、これを分離する労力は10a当たり延べ100時間以上、全労働時間の3割以上を占め、長年の懸案事項となっています。鹿児島県農業開発総合センターにおいても、約30年にわたり断続的に分離手法の研究開発を続けてきましたが、抜本策が見いだせないままでした。
このような状況の中、南九州で実用化された湛水栽培法は、増収が見込まれる反面、これまで以上に分離労力を要します。
そこで、2016年度から農林水産省の「革新的技術開発・緊急展開事業」を活用し、過去の知見を基に新たな子いも分離機の開発を進めてきました。その結果、2019年度から新機構による分離機が普及段階に至りましたので、紹介します。
2.分離機の仕組みと特徴
本機は、おもに「石川早生丸」を中心とする早生系品種の子いも分離作業を行うものです。
子いも分離の仕組みは以下の通りです。まず、親いもの外径に近い親いも打抜孔にサトイモ株を逆さに乗せ、油圧駆動のゴム製押圧板で株の尻部全体を包み込むように押圧します。押圧に伴って親いもが頂部から徐々に打抜孔に押し込められ、同時に外縁に着生している子いもが剥がされるように分離します。
子いも分離の仕組み
掘り取ったサトイモ株を逆さにして親いも打抜孔にセットし、押圧板を油圧の力で上から押し当てることで子いもを分離させる。押圧板は伸縮ゴム製なので、形状不揃いの株でも力が均等に加わり、子いもの分離を促進する
子いも分離後の粗選別
作業者左側の作業台には、掘り取ったサトイモ株を集積することができ、スムーズな作業が行える。また、作業者正面のほぐし選別台では、補助者による粗選別作業も行える (クリックで動画再生)
株の尻部全面をゴム製の押圧板で包み込むように圧力をかけることで、株全体に圧力が分散し、損傷いもが減少します。
押圧板はゴム製なので、いろいろな形の株に対応が可能です。親いも打抜孔はリング交換式で、親いもの大きさに合わせて数段階調節できます。株ごとにリングを交換する必要はありませんが、圃場ごと、あるいはロットごとに親いもの大きさの程度を見極めながらリング交換を行います。
異なる大きさの株への対応
親いも打抜孔のリングを交換することで、大小さまざまなサトイモ株に対応できる
機体の大きさは、長さ約2m、幅約1・4m、高さ約1・6m、重さ約100kg、搭載機関は定格1.6kW(2.2PS)で、圃場内では、手押し移動またはトラクタの標準3点リンクに装着して移動します。
3.子いも分離作業時間と損傷いもの発生程度
分離作業に係る作業時間は収量レベルで変動し、当然高収量になるほど、多くの時間を要します。本機を活用すると、子いも分離に要する作業時間は収量の多い少ないに関わらず、人力作業の4分の1~5分の1に短縮されます。
損傷いもの発生程度は2~5%で、こん棒やビール瓶などで叩きながら作業を行う慣行の手作業と、ほぼ同等のレベルです。なお、皮剥けについては収穫前期ほど発生しやすく、収穫後期ほど減少する傾向があります。
4.利用上の留意点
●親いもを逆さにして基部を打抜孔に入れ込む必要がある。打抜孔に入れ込む際に親いもの上下判別が必要となることから、掘り取り前の茎葉処理の切断高さは5cm程度が望ましい。
●株の抱土(株が抱えている土)は、分離の際に子いもの損傷を抑制する作用があることから、掘り上げ時の土ふるいは弱めでよい。なお、湛水栽培では抱土量が標準栽培に比べ1割程度増加するが、分離作業への影響は小さい。
●水田および畑土壌のいずれにも対応可能であるが、土壌水分が少ないほど土離れが容易となり、子いもの回収がしやすくなる。掘り取り後は可能な限り株の風乾を行ってから分離作業を実施するのが効率的である。
5.おわりに
サトイモは、労働力不足等により生産は減少傾向にありますが、水田の高度利用や畑地灌漑整備地域の導入品目として有望です。本機を活用することで、子いも分離に係る労働力を大幅に削減できることから、規模拡大や新たな産地育成に寄与できるものと期待しています。
▼参考
●最新農業技術・品種2020(農林水産省)
●大幅省力化が可能なサトイモ子いも分離機
執筆者
鹿児島県農業開発総合センター大隅支場農機研究室