緑肥を活用したサツマイモ「ベニアズマ」の高品質栽培技術
2019年11月12日
背景
茨城県のサツマイモ産地では、青果用主要品種の一つである「ベニアズマ」の品質(A品率:形状の良いサツマイモの割合)の低下が問題となっています。この問題に対して、これまでに茨城県農業研究所において、土壌腐植含量の減少による地力の低下が原因であることを明らかにしています(データ省略)。
そこで、地力を向上させる方法として緑肥を導入し、緑肥のすき込みによる地力向上効果と、サツマイモネコブセンチュウに対する防除効果を活かすことで、サツマイモ「ベニアズマ」の収量・品質を向上させる緑肥の活用法を明らかにしました。
高A品率(左、84%)と低A品率(右、15%)のサツマイモ(品種:ベニアズマ)
緑肥の導入について
緑肥とは、植物を堆肥化などの処理をせず、直接土壌にすき込んで肥料として利用するものを指します(出典:「土壌の事典」)。本研究ではソルガム、クロタラリア、エンバクを供試しました。
茨城県におけるソルガム、クロタラリアの播種適期は5月下旬~7月中旬で、サツマイモの挿苗後から早掘りサツマイモの掘り取り前の、作業が空く時期に播種することができます。そして、すき込み時期は播種後60日程度となるため、早い時期に播種することによって早掘りサツマイモ掘り取りの前にすき込みができ、作業を分散させることができます。さらに、サツマイモネコブセンチュウの増殖を抑える効果が期待できます。
エンバクは晩夏播き(年内すき込み)によって、サツマイモネコブセンチュウの増殖を抑える効果が期待できる品種を供試しました。茨城県におけるエンバクの播種適期は8月下旬~9月中旬ですが、普通掘りサツマイモの掘り取り開始時期と重なってしまうため、早掘りサツマイモ収穫後の跡地に播種することを想定した試験を行いました。
サツマイモ栽培の地力への影響
サツマイモはつるぼけ(つるが繁茂しすぎることにより、イモが大きくならない状態)になりやすい作物であることから、これまでは窒素施肥量を抑えた施肥が行われてきました。しかし、サツマイモの窒素吸収量は、窒素施肥量より多いことが分かっており、このことから地力が低下していくことが懸念されました。
そこで、緑肥を導入せずにサツマイモを連作したところ、可給態窒素(地力窒素)が低下していくことが確認できました。一方、サツマイモを1作休み、緑肥をすき込んでその翌年にサツマイモを栽培することで、サツマイモの連作と比較して可給態窒素の低下を抑えることができました(図1)。
図1 サツマイモ連作と緑肥すき込みによる可給態窒素の変化
注1)サツマイモ連作区のH29.1は1作後、H30.4は連作後を表す。
また、ソルガム区、クロタラリア区のH29.1はすき込み後、H30.4は緑肥後のサツマイモ後を表す。
緑肥すき込みによるサツマイモの収量・品質と可給態窒素への効果
ソルガム、クロタラリアおよびエンバクをすき込むことで、緑肥をすき込んでいない対照区と比較すると、可給態窒素(地力窒素)が増加し、翌年のサツマイモ「ベニアズマ」の上いも重(全収量)およびA品収量(形状の良いサツマイモの収量)は同等以上となりました(図2)。また、ソルガムとクロタラリアはエンバクよりもすき込み量が多いことから、可給態窒素(地力窒素)と収量向上への効果が高いことが分かりました(図2)。
図2 緑肥すき込みによる可給態窒素の変化とサツマイモの収量・品質への効果
注1)緑肥播種日・播種量(k/10a)・すき込み日
所内 :ソルガム6月17日・5・8月16日、クロタラリア7月26日・9・9月28日
ほ場A:ソルガム7月10日・5・8月24日、クロタラリア7月10日・8・8月24日
ほ場B:エンバク9月4日・10・11月10日
注2)図中の破線は標準収量2,500kg/10a、図上部の数値は緑肥のすき込み量(乾物kg/10a)
注3)図の可給態窒素について、○は前年のサツマイモ栽培後、△は緑肥すき込み後の測定値を示す
注4)サツマイモ施肥量(窒素-リン酸-カリkg/10a)
所内 :3.0-13.2-12.0(2作とも)
ほ場A:0.5-11.5-4.0
ほ場B:3.75-7.5-9.0
注5)所内の対照区はサツマイモ連作、ほ場A・Bの対照区は無作付(裸地)
サツマイモネコブセンチュウに対する防除効果
ソルガムおよびクロタラリアを栽培し、翌年にサツマイモを栽培すると、センチュウ防除を行わなかったサツマイモ連作と比較してネコブセンチュウによる被害が低減し、収量が増加しました。また、センチュウ防除を行ったサツマイモ連作と比較して、センチュウによる被害は同等、さらに収量は増加するという結果が得られました(表1)。
一方、エンバクはソルガムやクロタラリアと比較すると、ネコブセンチュウ被害低減効果が低いことが分かりました(表1)。
表1 緑肥栽培によるサツマイモのネコブセンチュウ被害低減効果
注1)殺線虫剤としてホスチアゼート粒剤(商品名:ネマトリンエース粒剤)20kg/10aを作畦前に全面処理した。
注2)緑肥播種日・播種量(kg/10a)・すき込み日
ソルガム 6月16日・ 5・8月15日
クロタラリア 6月16日・ 9・8月15日
エンバク 8月28日・10・10月24日
注3)サツマイモの挿苗日・収穫日
H29サツマイモ 5月22日・10月1日
H29早掘りサツマイモ 5月 9日・8月15日
H30サツマイモ 5月22日・10月1日
注4)被害指数=被害程度"甚"の塊根数×4+同"多"×3+同"中"×2+同"少")÷(調査塊根数×4)×100
被害程度 無:被害を認めず。少:わずかな被害を認める。中:小さな被害が多い。
多:小さな被害が多く、大きな被害も認め、塊根の形状が乱れる。
甚:大きな被害が多く、形状の乱れが著しい。
注5)調査対象のサツマイモは、80g以上の塊根である。
まとめ
今回の研究により、サツマイモの収量・品質への向上効果が認められる緑肥を選定することができました。ソルガムとクロタラリアは、収量・品質への効果が高いことが分かりましたが、サツマイモを一作休む必要があります。一方、エンバクは早掘りサツマイモとの組み合わせにより、休作せずに導入することができますが、収量・品質への効果はソルガム、クロタラリアに比べると劣ります。以上の特徴を把握することで、生産者が緑肥を導入する際の技術的な情報として活用しています。
今後は、休作せずに導入できる緑肥やリビングマルチなどの活用方法と効果について検討していきます。
執筆者
菅谷俊之
茨城県農業研究所 環境・土壌研究室