緑肥(ライ麦)との輪作による土壌物理性改善が夏秋トマトの安定生産に与える影響
2018年01月18日
はじめに
近年の温暖化傾向やゲリラ豪雨等の異常気象により、野菜生産は不安定となっており、今まで以上に土壌改善に取り組む必要があります。そのため飛騨農林事務所では、平成24年からJAひだと連携し、「土壌の化学性改善」に加え、「土壌の物理性改善」に取り組んできました。今回はその取り組みの一つである、緑肥(ライ麦)との輪作による夏秋トマトの土壌物理性改善について紹介します。
図1 トマトの湿害(2013、飛騨農林事務所)
※水田転作では被害が年々増加
夏秋トマトの土壌物理性実態調査
平成25年作の夏秋トマト栽培終了時に飛騨管内のY及びT地区において、飛騨農林事務所・JAひだ・肥料メーカーが協力し、地区内29圃場における土壌物理性調査を実施しました(図2、3)。
図2 貫入式土壌硬度計による調査(2013、飛騨農林事務所)
※調査場所は畝間
図3 採土管による土壌採取(2013、(株)日本肥糧)
※採取場所は畝下15cm
調査の結果、硬盤層の存在が判明しただけでなく(図4)、地区内の平均単収者は作土が浅く、土壌が硬い傾向であるのに対し、上位単収者は作土が深く、土壌が軟らかい傾向が判明しました(図5)。
図4 硬盤層で根が伸びない (2013、飛騨農林事務所)
※畝下を撮影
図5 単収の上位者と平均者の土壌硬度比較(2013、飛騨農林事務所)
また、毎年地区平均の2倍近い単収1位の生産者(M氏)の土壌物理性を分析したところ、最大容水量、孔隙率、仮比重の3項目において、地区1位であることが判明しました。特に仮比重において1.0を下回ったのはM氏のみでした。土壌の保水性・排水性の両方に優れ、土も軽く、細根がのびやすい土壌環境にあったのです(表1)。
M氏はもちろん、トマト生育の観察状況や栽培技術は優れていましたが、粗大有機物の稲わらを栽培終了後に鋤き込んだり(図6)、以前から鋤きおこしを行う等、土壌の物理性改良にも力をいれており、改めて土壌物理性の重要性が認識できました。
表1 単収の地区1位と平均値との土壌物理性比較 (土壌分析:2013、(株)日本肥糧)
図6 栽培終了後に稲わらを鋤き込み(2013、飛騨農林事務所)
緑肥(ライ麦)の栽培実証
粗大有機物や深耕による土壌物理性改善は有効ですが、粗大有機物の確保ができない生産者もいるため、新たな取り組みも行う必要がありました。
緑肥栽培は飛騨管内の一部の生産者ではすでに実施されていましたが、具体的なデータがありませんでした。
そこで、平成25年に飛騨農林事務所とJAひだ、肥料メーカーが協力し、地区内のトマト生産者(F氏)と協力し、農閑期のライ麦栽培による実証・調査を行いました(図7)。なお、ライ麦を選定した理由は、冬期の積雪でも生育に影響が少ないと判断したためです。
図7 トマト作付前にライ麦を作付(2013、飛騨農林事務所)
今回は降雪前のライ麦播種が間に合わなかったため、融雪後の3月下旬に播種し、60日前後栽培して草丈が50cm程度になったものを全量鋤き込みました(トマトの定植20日前)。
緑肥(ライ麦)栽培の土壌物理性調査
調査は夏秋トマト栽培終了時の10月30日に行いました。貫入式土壌土壌硬度計を用いた調査では、作土層の土壌硬度が低下しただけでなく、作土層の低下(深層化)がみられました(図8)。
図8 ライ麦作付有無による土壌硬度比較 (2013、飛騨農林事務所)
さらに、土壌の最大容水量や孔隙率は増加し、仮比重は小さくなりました(表2)。
また、トマトの生育面でみると、F氏の圃場は半身萎凋病の被害が年々拡大する傾向がありましたが(図9)、ライ麦作付圃場は被害の激減が確認されただけでなく、樹勢が生育終盤まで維持できました。
以上の結果から、翌年度から飛騨地域においては、トマトとライ麦の輪作体系による実証・普及が拡大することになりました(平成29年現在:37ha)。
表2 ライ麦の鋤き込みによる土壌物理性変化 (土壌分析:2013、(株)日本肥糧)
主な注意点
飛騨農林事務所がまとめた、ライ麦輪作体系の注意点を参考までに掲げます(平成25年度現在)。
●ライ麦の生育を期待するため、春(3月)播種ではなく、秋(11月)播種とするが、降雪前に出芽・生育するよう早めの播種に努める。
●播種量は5kg/10a。無肥料でばらまく。出芽率向上のため、覆土・土壌鎮圧を行う。
●翌春の鋤き込みはライ麦の草丈50~80cmを目安に(開花前)、新鮮有機物の状態で行う(刈取り後、乾燥させない)。草丈が長い場合は、細断してから鋤き込む。開花(出穂)期以降の鋤き込みは炭素率が高く、分解に時間がかかり、一時的に窒素の取り込みが起こることがある(窒素飢餓)。
●トマトの定植は、ライ麦鋤き込みから20~30日後に行う。新鮮有機物を鋤き込むと直ちに分解がはじまるが、一時的にピシウム菌(立枯病)の増殖や有害物質を生じ、この間の作付は生理障害になりやすい。
●地力窒素発現のため、トマトの基肥は削減し、樹勢をみながら追肥で対応する。
おわりに
今回の実証により、緑肥による土壌の物理性効果を確認することができました。緑肥栽培は通常、基幹作物を休ませたり、作期を短く変更したりする必要がありますが、今回の取り組みにより、夏秋トマトの作期に影響が少なく、毎年の輪作体系として普及することができました。ライ麦の栽培自体は簡単で、種子価格も安く、生産者にとって取り組みやすいうえ、物理性改善だけでなく、生物性改善(今回の実証では半身萎凋病が激減)や圃場外に持ち出せば、化学性改善も期待できます。実証を継続して行い、技術確立にむけて取り組むとともに、県内各野菜産地への普及にも取り組んでいきたいと思います。
執筆者
岐阜県農政部農業経営課 園芸技術支援係 技術課長補佐
(農業革新支援専門員・土壌医)
市原知幸