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治助イモ-奥多摩に伝わる幻のジャガイモ

2017年12月06日

特徴と由来

●東京都西多摩郡奥多摩町

 治助(じすけ)イモは、100年以上前から東京都西多摩郡奥多摩町小河内(おごうち)地区を中心に栽培されてきました。その伝来は、隣の檜原村で栽培されている「オイネのつるイモ(オイネさんが山梨県都留(つる)市から嫁入りした時に持参したと伝わるバレイショ)」を治助さんが持ち帰ったことと伝えられ、これが名前の由来となっています。
 形状は、長径6cm、短径4cm、40~50g程度の小ぶりで、「男爵薯」に比べて芽数が多く、白皮・白肉です。遺伝学的には「アーリーローズ」と近縁で、「オイネのつるイモ」とは同じ遺伝子型であることから、異名同品種であると考察されています。

栽培方法

 奥多摩町では、3月下旬~4月上旬、"さかっぱたけ"(坂畑)と言われる砂利の多い急な斜面に種イモを植えつけます。種イモは40g程度のものをそのまま使用するか、大きい場合には2~3片に切ります。草丈が50~60cm程度に伸長し倒伏するため、株間40~50cm、条間60~70cmにし、通常のバレイショ栽培よりも広めに植えつけます。種イモから芽が出たら、小さめのものを収穫するために、芽は2~5本程度残して芽かきをします。収穫時期は、「男爵薯」より遅く、地上部が完全に枯死した7月上旬ごろに行います。皮を固くし保存性を高めるために、早掘りは行いません。
 保存は、納屋などの暗所で保存し、光を当てないようにします。保存中に萌芽がみられますが、適宜摘除します。翌年の作付け用の種イモとして、収穫量の20~30%程度は保存すると良いでしょう。

奥多摩町の治助イモ振興策

 奥多摩町は治助イモ普及促進協議会を立ち上げ、ブランド化を図っています。2012年には「治助イモ」の名称を商標登録し、町の種イモから生産されたものだけを治助イモとしています。治助イモを使った料理を提供する店や宿泊施設を認定する「治助イモ認定店登録制度」を実施し、2016年9月時点で16店舗が登録されています。2017年10月からは、ロゴを貼付して"奥多摩町特産物治助イモ"として販売を始めました。また、栽培面積・生産量の増加を図るため、町の広報などで新たな生産者を募集し、種イモを貸し出して収穫後に2倍量を町に返却する仕組みをとっています。

食べ方

 味が濃厚で粘り強く煮崩れしにくい特徴を持っています。奥多摩町では米を生産することができなかったため、食料不足の時代には副菜としての利用だけでなく、保存食の役割も担っていました。生活に密着しており、例えば客人が来た時にはインゲンや昆布と煮て、もてなす習慣もありました。また、冬の寒い気候を利用し、濡らしたイモを一晩屋外に出し凍らせた後に乾燥させ、粉にして団子にする「イモ団子」を作り、"こがし"(大豆と麦を炒って粉にしたもの)をまぶして食すこともありましたが、近年は温暖化のため、作ることができなくなった幻の料理となっています。

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地元ではネギ味噌を添えて食べる(写真提供:おくたま海沢ふれあい農園)

 現在は一般的なバレイショ品種と同じように利用されています。そのまま蒸すか、ゆでるか、焼いて、ネギ味噌をつけて食すのが、地元の一般的な食べ方です。また、煮崩れしにくいことから煮物としても日常的に食しています。2016年8月から奥多摩町観光協会は、治助イモと鹿肉が入ったレトルトカレー「おくたまカレー」を販売し、土産物として人気があります。

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奥多摩町観光協会から販売された「おくたまカレー」

執筆者
上原恵美、北村優実
東京都西多摩農業改良普及センター 普及指導員

●月刊「技術と普及」平成28年12月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載