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中生晩熟期の高温耐性多収水稲「実りつくし」

2016年10月13日

研究の背景と狙い
 福岡県の水稲生産においては、極早生品種「夢つくし」、早生品種「元気つくし」や中生品種「ヒノヒカリ」が多く栽培されています。しかし、とくに作付けが多い「ヒノヒカリ」は、夏季の高温による外観品質の低下や作付けの過剰が問題となっていました。また、「ヒノヒカリ」は「元気つくし」と収穫時期が一部競合するため、両方を栽培している地域では収穫や乾燥調製に多大な負担がかかるという課題がありました。そこで県内では、収穫時期が「元気つくし」と競合しないよう「ヒノヒカリ」より収穫が1週間程度遅く、かつ高温耐性を有する水稲多収品種が求められていました。

 そこで、登熟期間の高温障害耐性(以下「高温耐性」)を有し、「ヒノヒカリ」より多収、良食味で、1週間程度収穫時期が遅い、新品種「実りつくし(みのりつくし)」を育成し、2015年度から福岡県の準奨励品種として作付を始めました。ここではその育成経過とその特性について紹介します。


育成の経過
 「実りつくし」は、2006年7月に中生、多収、高温耐性、良食味の「西海250号(後のにこまる)」を母に、早生、多収、高温耐性、良食味の「ちくし64号(後の元気つくし)」を父として人工交配を行った組み合わせに由来します。生産力検定試験やいもち病等特性検定試験とともに、登熟期間中の温水かけ流しによる高温耐性評価施設での評価により、高温耐性を有する本品種を育成しました。


特性の概要
(1) 形態的および生態的特性
 「ヒノヒカリ」と比較して、成熟期は5~7日遅く、福岡県では「中生の晩」に属します。1穂籾数が多く、千粒重が重いため、8~10%多収です。玄米の外観品質は良好で、検査等級は優れます。高温耐性は'強'で、登熟期間が高温でも外観品質が低下しにくく、葉いもち圃場抵抗性は'弱'で、穂いもち圃場抵抗性は'やや弱'です。
(2) 炊飯米食味特性
 炊飯米は、外観、味、粘りともに優れる良食味です。


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実りつくし(ちくし90号)(左)とヒノヒカリ(右)


栽培上の留意点
 「実りつくし」は、いもち病に弱いため、いもち病への対策を徹底する必要があります。
 また、「ヒノヒカリ」からの転換にあたっては、熟期が遅くなることから、水管理においても、熟期に合わせた対応を行うことが必要です。


成果の活用について
 「実りつくし」は、「ヒノヒカリ」より多収で、外観品質が良く、良食味であることから、大きな期待が寄せられています。今後福岡県において、中食、外食向け品種として、「ヒノヒカリ」に替えて普及を進めていきます。


執筆者
福岡県農林業総合試験場農産部水稲育種チーム
山口 修