農家がワラ残渣などを使って簡単に排水改良できる有材補助暗渠機「カットソイラー」
2016年10月06日
研究の背景とねらい
田畑輪換や畑輪作における畑作物の安定生産には、圃場排水性と土壌理化学性を簡便に改善する必要があります。農家が自分でできる従来の排水対策には、弾丸暗渠やモミガラ心破があります。しかし、弾丸暗渠は効果の持続性が短いため毎年の施工が必要であること、また、モミガラ心破は施工に手間がかかるという欠点があります。そのため、できるだけ簡単で、効果的な排水対策が求められていました。
こうした背景から農研機構農村工学研究部門は、農業で発生する収穫残渣や堆肥などの身近な資材を有効に活用して、これら資材が圃場に散在している状態のまま、農家自らがトラクターを用いて簡単に農地下層に埋設して、圃場排水性や土壌理化学性を改良できる有材補助暗渠機「カットソイラー」を開発、市販化により普及を進めています。
技術の概要
有材補助暗渠機「カットソイラー」は、疎水材となる資材の収集・運搬・投入が不要で、トラクターのオペレーター1名だけで施工を完結できるようにした、簡単で省力の画期的な補助暗渠の施工機です。
その特徴は、独特な施工方法にあります。
①疎水材には、農業で必ず発生するワラなどの収穫残渣や堆肥などの身近な資材を、圃場に散在しているそのままの状態で使用します。
②疎水材の埋設は、トラクターに接続した施工機「カットソイラー」を走行・牽引して、逆三角形の土塊を切断成形して持ち上げて作った35~50cmの任意の深さの溝に、地表面に散在している細かな資材を120cmの幅でかき寄せて落とし込み、下層に疎水材の充填した縦溝を構築する、極めて手間のかからない簡単な施工法です。
カットドレーン施工後の土壌断面
左上 :溝掘削時(左)と残渣埋設時(右) / 右下 :土壌断面
使用できる資材は、10cm程度に細断された稲や麦のワラ、トウモロコシの茎葉、豆の茎殻(粉砕状態)などの適度に乾燥した収穫残渣、緑肥の粉砕物、堆肥などの有機質資材です。適当な資材量は、ワラ類が100~300kg/10a、堆肥は4~8t/10aです。
カットソイラーの排水効果は、この資材の埋設された縦溝を通じて下方に排水が促進されます。
技術の改善効果
カットソイラーは、資材を溝状に埋設して補助暗渠を構築し、作土に溜まる余剰水を速やかに下層に移動させる水みちとなり圃場排水性を高めます。
カットソイラーによる補助暗渠の設置状況と麦ワラ埋設圃場の排水改善効果
左上から、稲ワラ(300kg/10a) / 麦ワラ(100kg/10a) / 麦ワラ埋設の灰色台地土の排水改善効果
また、有機質資材を埋設することで、下層土の物理性と化学性を改善します。下層土にリン酸などの養分が乏しい場合には、堆肥を投入して下層土まで根域が拡大しやすくなるように物理性が改善されるとともに、堆肥中のリン酸やその他の養分や微量要素が補強され、溝と周辺の土壌のリン酸含量などを高めます。これにより、作物根の伸長が促され、作物のリン酸などの養分吸収量を増加させ、作物の生産量が向上します。
カットソイラーは、畑作物に対する効果が高く、増収による増益で施工費をまかなうことができます。特に、直播テンサイなど、各作業の適期が短く、深根性で湿害に弱く、土地利用型作物の中でも収益性の高い品目に対して効果的です。
カットソイラーによる土壌と作物生育の改善効果
カットソイラーによる作物に対する効果と経済性
カットソイラーの適用条件
カットソイラーは、ほとんどの土壌で使用できますが、石礫や埋木が多い場合は施工できません。
使用トラクターは、3点リンク接続できるカテゴリーII規格以上、60馬力以上(4輪駆動)、フロントウエイト300kg程度が必要です。
今後の展望
近年の水田転作の増加に伴い、農家自らが収穫残渣を有効活用して圃場の排水性を改善できるカットソイラーは、暗渠排水の機能回復の切り札と考えています。カットソイラーは農業機械メーカーの協力のもと、全国販売と普及をめざしています。
▼農家が収穫残渣等を活用して排水改良できる有材補助暗渠機「カットソイラー」
執筆者
農研機構 農村工学研究部門 農地基盤工学研究領域 水田整備ユニット
北川 巌