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肥効調節型肥料を用いた多収水稲「北陸193号」の省力減肥栽培技術

2016年06月03日

研究の背景とねらい
 北陸研究センターで育成された水稲品種「北陸193号」は、800kg/10a以上の多収を得ることが可能な品種ですが、この品種に限らず多収品種は植物体が大きく、窒素吸収量も多いことから大量の施肥が必要です。

 新潟県での「北陸193号」の標準的な施肥基準では、基肥に窒素として6kg/10a、追肥4kg/10aの2回、計14kg/10aと、食用品種のおよそ2~3倍程度となっています。また「北陸193号」のような多収品種は、玄米単価を抑えるため、大規模圃場での効率的作業による生産が前提となります。より多い肥料を広い面積に散布するため、追肥作業の負担は普通品種より大きくなります。さらに、追肥時期が酷暑になりやすい7月中旬~8月初旬にあたることから、熱中症が発生する恐れもあります。

 そこで本研究では、肥料成分の溶出をコントロールできる肥料「肥効調節型肥料」を用いることで、「北陸193号」の多収と、窒素肥料および追肥作業の削減を両立する技術を開発するため、栽培試験を行いました。


施肥方法について
 肥効調節型肥料は、肥料を樹脂などで被覆し、土壌の中での肥料の溶出を調節できる肥料です。本研究では速効性の窒素肥料として尿素を、肥効調節型肥料として40、100、140日溶出型の被覆尿素を用い、それぞれを組み合わせて配合しました(表1)。試験区は、慣行区の窒素成分として14kg/10aに対し、21~43%削減した区を設けました。


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試験結果
 肥効調節型肥料を用いた試験区の窒素施肥量は、速効性肥料で基肥と追肥を施用した慣行区よりも3~6kg/10a少なかったものの、慣行区以上の収量を得ることができました(図1)。このとき、北陸193号の一穂籾数と登熟歩合、千粒重にはほとんど差は見られず、肥効調節型肥料を用いた試験区においては穂数が増えていました(表2)。このことから、北陸193号の栽培で多収を得るためには穂数を確保することが重要であることがわかります。


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図1 水稲の粗玄米収量(2011~2013年の平均値)


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 穂数については、分げつ期の葉色と関係があり、とくに分げつ盛期〜最高分げつ期の葉色との関係が強いことがわかりました(図2)。この時期は速効性肥料により分施した区においては追肥前にあたり、葉色が薄くなる傾向がありましたが、肥効調節型肥料を用いた区では、葉色は濃い状態が保たれていました(写真)


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図2 穂数と分げつ盛期の葉色の関係(2011~2013年、葉色は移植42日)
分げつ盛期の葉色が濃いと収穫時の穂数が多くなる


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写真 最高分げつ期の上空写真(2013年、撮影:加藤仁)
速効性肥料のみの処理区(慣行、速減)で葉色が薄い


 また、施肥した肥料の窒素成分が稲に吸収された割合は、肥効調節型肥料を用いることで高くなりました(図3)。肥効調節型肥料は稲の生育に合わせて窒素成分が溶出し、稲が肥料からの窒素を効率よく吸収できたため、慣行区よりも少ない施肥量でも同等以上の収量が得られたと考えられます。さらに肥効調節型肥料を用いることで、基肥として生育期間に必要な窒素全量の施肥が可能なため、追肥作業の省略ができます。
 このように「北陸193号」の栽培において肥効調節型肥料を用いることで、多収を維持しつつ、追肥作業を省略し、窒素肥料をおよそ2~4割削減することが可能でした。


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図3 水稲の施肥窒素利用率


注意点
●試験は農業・食品産業技術総合研究機構中央農業総合研究センター北陸研究センター(現中央農業研究センター北陸研究拠点、上越市)の圃場で行いました。
●肥効調節型肥料を用いた処理区では、分げつ盛期~最高分げつ期において葉色が濃く推移するため、ウンカ類の発生地では注意が必要です。


執筆者
農研機構 中央農業研究センター北陸研究拠点
水田利用研究領域 北陸土壌管理グループ
平内央紀