「タカナリ」の脱粒性を改良した中生の多収水稲新品種「オオナリ」
2016年05月24日
育成経過
温暖地向きの飼料用米に適した水稲多収品種としては、これまでは「タカナリ」が利用されてきました。しかし、「タカナリ」は脱粒しやすく、刈り遅れた場合など収穫期の収量損失の多いことが問題でした。そこで、農研機構 次世代作物開発研究センター(旧 作物研究所)は、「タカナリ」の脱粒性を改良した品種の育成を進めました。
「オオナリ」は、「タカナリ」のγ線照射による突然変異個体から選抜し、育成した品種です。平成27年6月に品種登録出願を行い、同年9月に品種登録出願公表されました。多収品種「タカナリ」をもとに改良し、収量がさらに多くなっていることから「オオナリ」と命名しました。
「オオナリ」の圃場での草姿 (左:「タカナリ」、右:「オオナリ」)
品種の特性
生育特性や草姿は「タカナリ」とほぼ同じで、出穂期および成熟期は"中生"、草型は"穂重型"です。脱粒性は「タカナリ」が"易"であるのに対し、"中"に改良されています。栽培適地は、関東以西の地域です。脱粒性の改良により収穫期の収量ロスが少なくなるため、粗玄米収量は早植・多肥試験栽培で940kg/10aと、「タカナリ」に比べて7%程度多収となります。
白葉枯病抵抗性は中程度で、縞葉枯病には抵抗性です。いもち病に対しては複数の真性抵抗性遺伝子を持つと推定されており、通常は発生しません。しかし、葉いもちの圃場抵抗性は弱いので、種子消毒など慣行防除を徹底する必要があります。玄米の外観品質は食用品種の「日本晴」よりも劣り、粒形はやや細長いことから、食用品種と識別が可能です。「タナカリ」同様、製パンなどの加工用米としても利用できます。
オオナリの生育収量特性
脱粒のようす。「オオナリ」(左)と「タカナリ」(右)
「オオナリ」の籾および玄米。
左から「オオナリ」、「タカナリ」、「日本晴」
栽培上の注意点
耐冷性が弱いため、冷害の恐れのある地域での栽培には向きません。種子の休眠性が深いため、播種に際して休眠打破の処理が必要です。また、トリケトン系4-HPPD阻害型除草成分(ベンゾビシクロン、テフリルトリオン、メソトリオン)に感受性が高いため、それらを含む除草剤の使用には注意が必要です。
今後の予定・期待
栃木県宇都宮市で、「タカナリ」に替えて数ha作付けされました。この他、これまで「タカナリ」を栽培していた地域などでも普及が期待されています。
執筆者
農研機構 次世代作物開発研究センター 稲研究領域
小林伸哉