新姫-熊野古道生まれのお姫さま
2016年03月28日
由来と特徴
「新姫(にいひめ)」は三重県熊野市新鹿(あたしか)町に自生していた香酸カンキツ類です。熊野市では野生の「タチバナ」を市天然記念物として指定していましたが、現在の「新姫」も昭和45年に「タチバナ」の変種として追加指定されています。熊野市教育委員会が発行した記念物記載書には「(前略)降霜期に入ると酸味が減り、小児は喜んで食します。また、生花として珍重されている」との記載があります。その後、国の調査で「ニホンタチバナ」と他種の交雑種であることがわかりました。
平成9年に新品種として登録されました。「新姫」は当地方では5月上旬に開花、1月上旬に完全着色します。果実重は約30gで、12月下旬には糖度11.6%、クエン酸濃度4.5%になります。「タチバナ」と比べて、果実は大きく、果皮の赤みが強いのが特徴です。
収穫期の果実(熊野市役所 農業振興課 提供)
栽培方法
熊野市は関係機関と連携して、「新姫」のための栽培暦を作成しています。暦は生産者に配布し、定期的な講習会を実施し、栽培技術を共有し、増産および高品質化を目指しています。
果皮ごと搾汁するため、薬剤散布を極力控える栽培方法をとっています。果実に含まれている機能性成分を確保するために、10月中旬の完熟前の果実を収穫します。また、一般的なカンキツ類と比べて果実が小さいため、収穫に労力を要します。労働生産性の向上が今後の課題です。
食べ方(機能性)
発見地である新鹿町は熊野灘に面した漁村で、昔から焼き魚(主にアジ、サンマ等)に生果汁を絞りかけて使われています。加えて近年は地元の食堂等で各種料理に活用されており、果汁は鍋物、酎ハイのカクテル素材として利用されています。
生果汁における総フラボノイド含量が、近縁種に比べて高いことが県研究機関により確かめられており、果汁を利用した加工食品が多数販売されています。
今後、機能性を高めた商品を開発するには、これらを果皮からより多く抽出することが課題です。
開発された商品の数々(一般財団法人熊野市ふるさと振興公社 提供)
産地の動向
種苗登録は熊野市が平成26年度まで保有していました。今のところ熊野市内で産地化されており、市特産品としてブランド化しています。一般財団法人熊野市ふるさと振興公社が、加工品の製造と販売を担っています。
比較的獣害を受けにくいので、市としては、中山間地の換金品目としての定着を目指しています。平成18年から産地化を進め、現在では苗木12,000本が栽培されています。そして、今後さらに商品化を進めるために、市主導により商品開発と販売拡大戦略を展開し、栽培技術の高位平準化について関係機関一体となって支援を行っていきます。
香酸カンキツ「新姫」イメージキャラクター「にいひめちゃん」(熊野市役所 農業振興課 提供)
鈴木賢
三重県紀州地域農業改良普及センター 普及一課長
●月刊「技術と普及」平成26年9月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載