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甘味があってホクホクした食感が特徴の親芋用サトイモ品種「媛かぐや」

2016年03月25日

育成の背景
 愛媛県は出荷量が全国第5位(※)のサトイモ生産県で、1960年代に一般的になった「いも炊き」は、愛媛県の伝統的な郷土料理として広く親しまれています。おもな出荷品種は愛媛県が育成した子・孫芋を食べる早生品種の「愛媛農試V2号」(商標:伊予美人)ですが、産地からは食の多様化に対応し、新規性のある品種育成の要望がありました。
 そこで、愛媛県農林水産研究所では、食味や形状、利用方法が異なり、食材としてのバリエーションを拡げることができるオリジナリティの高いサトイモ品種をめざして日本初の人工交配による品種を育成しました。

(農林水産省、平成26年:6,360t)


育成の経過
 サトイモは開花する品種が限られているので交配による品種育成が難しいのですが、ジベレリンを処理することで、品種によっては開花させることが可能になります。
 1993年に「たけのこ芋」と「唐芋」をジベレリン処理で強制的に開花させて交配し、胚培養により個体を作出した後、ほ場で選抜を重ねました。2007年に親芋が紡錘型でボリュームがあり、現地試験での評価も高く、最も有望な系統を「媛かぐや」と命名して品種登録申請を行い、2010年3月に品種登録されました。


品種の特性
 「媛かぐや」は、おもに親芋を食べる晩生品種です。草丈は「唐芋」と比べて高く、また、葉の緑は「たけのこ芋」と比べて濃く、葉柄は赤みが濃く芋茎(ずいき)として調理して食べることもできます。親芋は紡錘型で、重さは約1,400gあり、「たけのこ芋」と比べて40%程度重く、外観は赤みが濃く、肉質は粉質で甘みがあります。子芋も食用が可能ですが着生数は少なく、「たけのこ芋」や「唐芋」と比べて1個重は重くなります(図1、2、表)


201603_himekaguya_1.jpg  201603_himekaguya_2.jpg
 :図1 媛かぐやの地上部
 :図2 媛かぐやの芋部 (注:中央が親芋、それを挟んで左が子芋、右が孫芋)


201603_himekaguya_hyo1.jpg


 「媛かぐや」は煮芋だけでなく、その食味と食感が活きるグラタン、コロッケなどの幅広い料理に活用できます。肉質が粉質であるため加工特性に優れ、プリン、アイスクリーム、ケーキなどの材料にも適しています(図3)


201603_himekaguya_3.jpg  201603_himekaguya_4.jpg
媛かぐやのコロッケ()とプリン(


栽培上の留意点
 適応地域は、関西以西の温暖なサトイモ栽培適地で、種芋の植付適期は3月上旬から4月中旬、収穫期は11月上旬から12月中旬です。おもな利用部位となる親芋は地中から伸びて地上に出ますが、土寄せをしなくても芋は十分に肥大します。親芋の収穫は鍬等を使わず手で引き抜くこともできます。
 「媛かぐや」の種苗の購入については、愛媛県内の方は(有)雅園(電話0898-66-3152)まで、また、愛媛県外の方については、愛媛県農林水産部農産園芸課 研究企画係(電話089-912-2559)までお問い合わせください。


執筆者
愛媛県農林水産研究所 農業研究部 作物育種室
中川建也