簡単に施工できる穿孔暗渠機「カットドレーン」の開発
2015年12月09日
研究の背景とねらい
畑作物の生産力を強化する上で、圃場の排水改良は不可欠な技術ですが、排水対策としての暗渠の老朽化と性能低下による排水不良が現場の大きな課題となっています。
そこで、農村工学研究所と(株)北海コーキは、独創的な穿孔方法を用いて、深さ70cmまでの位置に耐久性のある通水空洞を無資材で、かつ、農家自らがトラクターで迅速・簡単に施工できる穿孔暗渠機「カットドレーン」を開発・実用化し、市販して普及を進めています。
技術の概要
暗渠と同様の排水効果があり、農家が簡単に施工できる排水改良技術である穿孔暗渠機「カットドレーン」(写真1)は、管路や疎水材を用いることなく、トラクターに装着した施工ユニットを土に挿入するだけで、暗渠と同じ70cmまでの任意の深度に10cm四方の大きな通水空洞を作ることができます。この空洞の成形方法は、従来の弾丸暗渠と異なり、土を2つの四角形のブロックに切り出して動かすことで通水空洞が確保されることから、これまでにない独創的な新しい方法です(図1)。カットドレーンは、土を切断する点と溝の横側に空洞を成形する点により空洞の崩落を防ぎ、施工に適する泥炭土や重粘土において、おおよそ3~5年ほど空洞が維持されます。
また、カットドレーンは、この穿孔した空洞をとおして排水が促進されます(図1)。
図1 カットドレーンの施工方法と通水空洞とその経年変化、排水の状態
施工方法(左上)と グライ土での施工状況(右下)
グライ土での施工状況。施工後(左)(上)と2年目(右)(下)
技術の改善効果
秋コムギの播種前にカットドレーンを施工した圃場では、降雨時でも表面滞水が発生せず、土壌水分が低く保たれ、機械走行が可能な圃場の状態でした(写真2左)。一方、未施工圃場では、全面が表面滞水し、土壌が軟弱な状態となり、降雨後も農作業ができない圃場の状態でした(写真2右)。このように、カットドレーンによる排水性の確保は、適切な農作業の実施に貢献します。
写真2 カットドレーン施工圃場と隣接する未施工圃場の表面滞水の状況
カットドレーン施工圃場(左)(上)と未施工圃場(右)(下)
また、カットドレーンは、暗渠としての排水機能を有しており、湿害に弱い畑作物の生育に適した土壌条件(写真3)を確保し、湿害回避による増収効果を発揮します(表1)。
写真3 カットドレーン施工圃場と隣接する未施工圃場のダイズの生育状況(宮城県の試験事例)。カットドレーン施工圃場(左上)と 未施工圃場(右下)
表1 カットドレーン施工による畑作物の増収効果(北海道の試験事例)
今後の展望
近年の水田転作の増加に伴い、農家自らが資材を使用せず簡単に暗渠を施工できるカットドレーンは、排水改良の切り札になると考えています。カットドレーンは、農業機械メーカーにご協力いただきながら全国販売しており、北海道から沖縄まで全国的に普及しつつあります。
執筆者
農研機構 農村工学研究所 農地基盤工学研究領域
北川 巌
※関連サイト
大豆300Aレポート#03 技術顧問によるワンポイントアドバイス(クボタ営農ナビ)
~【大豆300AレポートNo.1(後編)】排水性を大きく向上させる「地表排水」と「地下排水」~