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レッドカーランツの省力樹形と市場性評価について

2014年05月28日

研究の背景とねらい
 レッドカーランツ(レッドカラント)は赤フサスグリ(房酸塊)の英語名で、ヨーロッパ原産のユキノシタ科スグリ属の落葉植物、フランス語でグロゼイユと呼ばれる。近縁の植物にクロスグリがあり、こちらはフランス語のカシスでおなじみである。

 レッドカーランツは樹の高さが1.5mくらいになる落葉低木で、つやのある真っ赤な果実を房状につける(写真1、2)。果実の調理・加工文化のある欧米では、ジャム、ゼリー、果実酒用に広く利用されている。日本でも、近年の消費の変化に伴う果実需要の多様化により、国内の洋菓子店やフランス料理店で、装飾用果実、ソース、ジャムなどとして需要が増えている。しかし、そのほとんどは輸入果実が利用されており、国内では家庭果樹などとして小規模に作られているだけで、大規模な営利栽培はほとんど行われていない。


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 :レッドカーランツの果実(写真1)
 :レッドカーランツの栽培のようす(写真2)


 このような状況の中、宮城県ではレッドカーランツを水田転作における振興品目の一つとして位置づけ、平成22年度から集落営農組織等の担い手に導入を進めてきた。また、震災直後の平成23年度からは、「食料生産地域再生のための先端技術展開事業」において、多くの試験研究機関とコンソーシアムを組みながら、津波被害を受けた農地における営農再開のための有望品目として試験を行っている。


これまでの栽培試験の成果
 レッドカーランツは寒冷な気候を好むため宮城県を含む東北地方に適しており、他の小果樹類と同様に栽培は比較的容易である。しかし、多収・省力・高品質果実生産等の視点からの技術開発が進んでいないことから、粗放的な管理が行われて樹形が乱れ、特に収穫に労力を要している状況である。他の小果樹類と同様、収穫が年間作業の大部分を占めることから、収穫時間を短縮することがレッドカーランツの省力栽培につながると考えられる。

 そのため、宮城県農業・園芸総合研究所ではレッドカーランツの収穫時間を短縮できる樹形の開発に取り組んでいる。現在までのところ、図1に示したように、樹を構成する主軸枝を2年生と3年生で構成し、主軸枝の本数を6本(3年生の主軸枝3本、2年生の主軸枝3本)に制限することで、慣行樹形に比べて3~4割程度収穫時間を短縮することができ、収量も1a当たり100kg以上得られている。
 また、宮城県では露地栽培でも十分に栽培が可能であるが、雨よけ栽培にすることで、収穫時の果実の汚れや腐敗が減り、形状の優れた房が生産できる。


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図1 省力樹形のイメージ
(クリックで拡大します)


レッドカーランツの市場性調査の成果
 レッドカーランツの需給動向については統計資料が乏しく、既存の研究成果も少ない。そこで、平成24年度に本研究所で行った調査結果について紹介する。

 大田市場におけるレッドカーランツの生鮮果実の販売は6月中旬~7月にY県産、7月中旬にカナダ産、12月にチリ産のみで、他の期間は冷凍果実が出回っている。平成24年の年間入荷量は、チリ産が約4t、Y県産が約800kg、カナダ産は極少量である。チリ産果実は一房あたり25~30粒の着果があり、房長は10cm程度と優れた品質である(写真3)。一方、カナダ産は着果不良の房が多く、昨年はほとんど販売には至らなかった(写真4)


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 :大田市場で流通するチリ産果実(写真3)
 :大田市場で流通する輸入果実。チリ産(左)とカナダ産(右)(写真4)


 国産では約20年前からY県産果実の入荷があるが、チリ産と比べ小粒であること、他商品との混載便で輸送されるため低温流通できず、輸送中の果実の品質低下が課題となっている。チリ産の生鮮果実は約3,000円/kg、Y県産は約4,000円/kgで納入業者へ渡り、おもに都内の洋菓子店やホテル等に販売される。特に、クリスマスと4~6月頃に需要があり、以前は専門料理店で肉料理のソースとして使用されることが多かったが、平成2年頃からケーキ類の装飾需要が増加している。


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レッドカーランツが飾られたケーキ


今後の課題
 宮城県におけるレッドカーランツの導入は始まったばかりであり、栽培に関してはいまだ知見が少ないため、本研究所で得られた成果を積極的に普及しながら、栽培技術の向上を支援していく必要がある。また、市場性評価の結果、形状の優れた生鮮果実が求められていることから、市場出荷向けの商品果実を多く得るための栽培方法についても検討している。

 市場性評価に関しては、引き続き市場及び実需者の求める果実品質や荷姿、価格等の需要実態を調査している。また、実需者からは冷凍果実やピューレ等の一次加工品も含めた周年供給を望む声もあり、生産者と実需者双方にとって効率的な流通体制のあり方についても検討していきたいと考えている。
 さらに、果物全般の中でも、他の品目に比べ、なじみのない珍しい果物として認識されているため、消費者に対しても認知度の向上を目指したPR活動が必要である。


おわりに
 これまで紹介してきた内容は、「食料生産地域再生のための先端技術展開事業」の成果であり、東日本大震災による津波被害を受けた宮城県山元町及び亘理町における新たな導入品目として普及をめざしている。
 現在、山元町の田所食品(株)の協力のもと、津波被害を受けた農地での栽培実証試験を行っている。田所食品(株)は、震災前、自社でヤマブドウの生産を行うかたわら、ヤマブドウ、リンゴを核とした果汁加工・販売に取り組んでいた。津波により園地は浸水し、果汁加工施設や作業所、隣接する自宅も全壊したが、再び園地を造成し、果樹生産と加工に着手した経営体である。

 今後、田所食品(株)を本事業の核とし、栽培技術や流通のあり方を検討しながら、収益性の高い新規品目として被災地におけるレッドカーランツ栽培の普及を図る計画である。


執筆者
宮城県農業・園芸総合研究所 園芸栽培部
柴田昌人