ていざなす-龍の隠れ棲む村に作り継がれた、幻の巨大ナス
2014年05月23日
由来と特徴
●栽培地域 :長野県下伊那郡天龍村
「ていざなす」は、米ナス系の巨大ナスで長さは25cm~30cm、重さは400g~600gで、緑色のヘタに果皮は薄紫色といった、外観的にも特徴的なナスです。また味も大きなナスではありますが、肉質が柔らかく甘味が強くなっています。
明治の中頃に、天龍村神原地区に住んでいた田井沢久吉さんが、東京の種苗店から種子を取り寄せて栽培したのが最初で、田井沢さんの名にちなみ「たいざわなす」と言われていましたが、地元では親しみを込めて「ていざなす」と呼ばれるようになりました。
米ナス系の巨大ナス「ていざなす」
栽培方法
5月上旬に定植し、収穫は7月上旬から11月中旬まで続きます。
種子は田井沢さんから現在は恩沢博司さんに受け継がれ、それを天龍農林業公社が採取圃場で栽培・採種、共同育苗を行い、生産者組合に供給してきました。最近は土壌病害対策から接ぎ木苗の利用が増えています。
通常は3本仕立てとし、ナスが大きいために枝ごとに支柱を立て固定します。
管理は一般のナス栽培に準じますが、施肥は有機質肥料と緩効性肥料の組み合わせにより、元肥主体で行います。
全体の収量は、1株当たり10本以上の収穫を目指しています。
通常は3本仕立てとし、ナスが大きいため、枝ごとに支柱を立て固定する
食べ方
ポピュラーですが、このナスの柔らかさと甘味が伝わるのは、焼きナスです。丸ごと焼いて皮をむき、かつお節とおろし生姜を添えれば、いくらでも食べられます。また、村のレストラン龍泉で人気の高い「ていざなす定食」は半割りにしたナスを油で揚げ、肉味噌をのせたボリュームのある逸品で、夏の人気メニューになっています。
ていざなすの味噌田楽が人気の「ていざなす定食」
消費の拡大に向けて、村内の女性組織やレストランの協力をいただき、レシピ集を出しています。さらに今後は年間を通じてこのナスのおいしさを多くのお客様に届けるため、天龍農林業公社では加工品の開発に取り組んでいます。
産地の動向
平成19年から「天龍村ていざなす生産者組合」を設立して、振興に取り組んでいますが、天龍村は全国でも高齢化率が高い村で、何よりも後継者づくり、栽培継続が課題になっています。生産者の人数や面積は横ばいではありますが、栽培技術の向上で生産量は徐々に増えてきています。
信州の伝統野菜として知名度が高まり、顧客が増え、さらなる生産を期待されることで、高齢ながら意欲の高い生産者が見られます。条件の悪い耕地でも、互いに切磋琢磨しながら、生産販売に取り組む姿には頭が下がります。今後も役場や天龍農林業公社と協力して、栽培技術はもちろん、生産者組合の運営等も手伝っていきたいと考えています。
ていざなすの栽培講習会風景
宮嶋真司
長野県下伊那農業改良普及センター阿南支所 技師
●月刊「技術と普及」平成25年6月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載