9月下旬に成熟する、着色良好な赤色品種「紅いわて(岩手7号)」
2012年09月13日
●育種目的
岩手県で栽培されているりんご品種は、「ふじ」の割合が約40%と高く、晩生種にかたよった構成となっています。近年、「千秋」の栽培面積が減少したことから、早生種収穫以降で中生種収穫前の9月下旬成熟期の優良品種が望まれていました。
また、県北部・高標高地帯では「ジョナゴールド」や「ふじ」の熟期が遅れることから、中・晩生の優良品種開発が期待されていました。そこで、品質ならびに栽培特性に優れた岩手オリジナルりんごの中・晩生の優良品種の育成を目標とし、選抜を行ってきました。
●育成経過
「紅いわて」は、1991年に「つがる」×「プリシラ(推定)」を交雑して得られた種子を1992年に播種し、その実生を1993年に「M.26」台木に接ぎ木しました。1996年に穂木を採取し「M.9」台木に接ぎ木を行い、2000年に初結実したものの中から選抜された品種です。
2008年3月に「岩手7号」として種苗法に基づく品種登録を出願し、2009年9月10日に品種登録されました(品種登録番号第18415号)。「紅いわて」は商標名になります。
「紅いわて」の果実(左上)と「紅いわて」の結実の様子(右下)
●品種特性
「紅いわて」の生態は、育成地である岩手県農業研究センターにおいて、発芽期は、3月下旬から4月上旬で、「王林」とおおむね同じからやや早いです。展葉期は、「ふじ」や「王林」よりやや遅く、「つがる」より早いです。開花始は、「王林」より遅く、「ふじ」とおおむね同じからやや早く、開花期間は5月上中旬です(表1)。
「紅いわて」の熟期は、育成地である岩手県農業研究センターにおいて、9月下旬であり、「つがる」より遅く「ジョナゴールド」より早く、「千秋」とほぼ同時期です。
果実の形状は円形で、大きさは原木で250~300g前後とやや小ぶりです。現地試験の高接ぎにおいては350gを超える事例もあり、栽培条件によっては大玉も期待されます。果肉の色は白、果肉の硬さは硬、肉質は中、蜜入りの多少は少、果汁量は多いです。果皮を覆う色は濃紅色から暗紅色で全面に良く着色します。サビの発生は少なく、さび状果点が有り、果点の密度はかなり高く、スカーフスキン(※)は少なく、果皮のろう質は中です。糖度は13~14%(Brix)、酸度は0.3~0.4g/100mlであり、酸味が穏和で食味良好です(表2)。
※スカーフスキン :果実表面にあらわれる模様
9月下旬に収穫した果実の日持ち性は、普通冷蔵で約1カ月、常温で10日程度と推察されます(表3)。
本品種を種子親にした時、「ふじ」、「つがる」では結実率が90%以上と高い親和性を示し、「きおう」、「さんさ」、「千秋」でも実率が80%と高くなっています。また、「紅いわて」を花粉親にした時、主要品種の結実率は90%以上と高い親和性を示し、多くの果実が実ります。
なお、結実に関係するS遺伝子はS3S9であり、岩手県オリジナル品種「黄香」と同一で、結実しないため、植栽時には注意が必要です。
●加工特性
一般的に、多くのリンゴ品種は剥皮後の果肉が褐変するため、カットフルーツなどへの利用が難しいですが、「紅いわて」は剥皮後の変色が少ないとされています。収穫期が近い代表品種の剥皮後の褐変程度を比較したところ、代表品種「千秋」、「ジョナゴールド」、「ひろさきふじ」、「シナノスイート」、「昂林」、「秋映」、「涼香の季節」、「さんたろう」、「トキ」、「秋陽」、「北紅」に比べ、果肉が褐変しにくい特性があります。
●栽培上の留意点
「紅いわて」の着色は良好です。着色管理方法を検討したところ、着色管理区ではさらに着色の均一性が向上しました。また、着色管理は葉摘み、玉まわし1回の作業で良いとされる、省力的な品種です(表4)。着色が良い品種であり、着色管理が容易ですが、早取りしないように注意が必要です。
「紅いわて」の樹体にはバーノット(気根束)が発生します。他の品種では、樹齢が進むにつれてバーノットの発生が見られ、樹体が衰弱することが報告されていることから、樹体管理については注意が必要です。
執筆者
岩手県農業研究センター 技術部 果樹研究室
畠山隆幸
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