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復元田でも倒れにくく、増収が期待できるイネ品種「げんきまる」

2012年07月30日

研究の背景とねらい
 宮城県は大豆の栽培面積が、北海道に次いで全国第2位(2010年現在、11,100ha)で、その95%以上が水田を利用して栽培されています。大豆を栽培した後の水田は、復元田と呼ばれ、イネの養分吸収が高まりイネが倒れやすく、病害虫の発生が多くなることがあるため、宮城県では、主力品種の「ひとめぼれ」よりも倒れにくく、いもち病に強い「まなむすめ」が栽培されています。しかしながら、実際の生産現場では「まなむすめ」でも倒れてしまう場合があり、「まなむすめ」よりも倒れにくく、多収で、玄米品質と食味が良い品種が要望されていました。


育成の経過 
 「げんきまる」は、いもち病や耐冷性が強く、玄米品質や食味が良く、多収の品種の育成を目標として、2000年に、「北陸188号」を母、「まなむすめ」を父として交配し、その後代から育成されました。2006年から「東北189号」の系統名をつけ、栽培試験を継続しておこなってきました。その結果、地力が高い水田で収量が高く、倒れにくい特長があることがわかり、2010年に宮城県の奨励品種として採用され、普及されることになりました。
 倒れにくくて、たくさんとれることから、たくましい元気な男の子をイメージして「げんきまる」と命名されました。宮城県の観光PRキャラクター「むすび丸」も意識しています。


特性の概要 
 「げんきまる」の生育と収量、及び特性を表1、2に示します。

 出穂期は「ひとめぼれ」や「まなむすめ」と比較して1~3日、成熟期は3~6日遅くなります。稈長は、標肥栽培では「まなむすめ」とほぼ同じですが、多肥栽培にすると長くなります(表1、写真1)




写真1 成熟期の草姿(左:「げんきまる」、右:「まなむすめ」)


 千粒重は、「まなむすめ」よりやや大きい23~24g程度で、玄米重は、標肥栽培では「ひとめぼれ」や「まなむすめ」と同等ですが、多肥あるいは極多肥栽培にすると増加し、「まなむすめ」対比で107%、109%になりました。いもち病抵抗性は、真性抵抗性遺伝子Pibをもっていますが、菌の変異により発病する場合があるので、発病を確認した場合は防除が必要です。穂発芽性は"難"、耐冷性は"極強~強"、玄米品質は「ひとめぼれ」並の"上中"、食味は「ひとめぼれ」よりやや劣る"上下"になります(表2)



 耐倒伏性は「ひとめぼれ」や「まなむすめ」に優る"強"で、稈の太さは、「まなむすめ」、「ひとめぼれ」よりも太く、稈挫折荷重(稈が折れるまで耐えられる力の大きさ)が、「ひとめぼれ」や「まなむすめ」より大きく、稈の強度に優れています(図)表3は、2008~2009年の復元田における玄米収量の結果です。2008年が82.4kg、2009年が84.1kg/a(「まなむすめ」対比119%)となり、現地において高い収量性を実証しました。



図 稈の太さと強度
グラフ上の数値は稈の太さ(mm)を示す



研究成果の活用について 
 「げんきまる」は、地力の高い水田や多肥栽培をした場合、多収であることから、今後需要が増加すると見込まれる業務用米や加工用米、米粉としての利用が期待できます。これまで、白飯以外の用途として、味噌や米粉製品(写真2)の試作、醸造適性の試験をおこなっており、これらの加工品に十分活用できることがわかっています。


  
写真2 「げんきまる」の米粉パン()と米粉バーガー(


 種子については、宮城県内の生産者であれば、農協を通じて入手することができます。宮城県外については、現在のところ、奨励品種として採用されていないため、栽培することはできません。


執筆者
宮城県古川農業試験場 作物育種部
遠藤 貴司