皮ごと食べられて省力栽培できるブドウ新品種「秋鈴」
2012年06月26日
●育成経過
「秋鈴」は、1994年に福岡県農業総合試験場において、皮ごと食べられる「ルビーシードレス」に大粒の「ハリセフ」を交雑して得られた実生から選抜された二倍体のヨーロッパブドウです。
2004年からブドウ第11回系統適応性検定試験に供試され、2010年4月に出願公表となっています。
品種名は、「晩秋の紅葉に先駆けて鈴なりの赤ブドウが成熟する光景」をイメージしてと命名されました(写真1)。
●品種特性
樹勢は強く、新梢伸長が盛んで樹の拡がりは大きいです。幼木期から1新梢当たり2個程度の花穂が着生しますので、短梢剪定栽培に向いてます(写真2)。育成地の福岡県筑紫野市では、開花期は5月下旬、収穫期は9月中下旬です。
果粒は短楕円形で果粒重は6g程度、自然状態で種なしであるのが最大の特徴です(写真3)。果皮は薄く紫赤色で、肉質は硬く、皮ごと食べられます。糖度は18度、酸含量は0.4g程度、香気および渋味はありません(表1)。裂果性は少ですが、露地栽培では発生しやすくなります。
表1 「秋鈴」の品質特性(福岡農総試 2006~2008年)
●栽培法
H型の短梢剪定仕立てを行う場合には、主枝長は4m程度、栽植間隔は4×8mとします。花穂の整形は、開花始期から満開期にかけて先端6~7cmに切詰め、軸長8~9cm当たり50粒程度に摘粒して250~300g程度の房作りを行うと、着色の安定と糖度の上昇が図れます。
作業労力では、花穂整形で中、摘粒で少程度であり、「巨峰」よりも約30%の省力化が図れます。着果量の目安は、1新梢当たり1房が原則ですが、1果房が150~200g程度の小房なら2房着果させることも可能です。
裂果対策として、果実軟化期からの定期的な灌水やマルチ設置によって、土壌湿度の急激な変動を防ぐことが大切です。慣行の薬剤防除体系の中では、特に注意を必要とする病害虫の発生はありません。
●栽培上の留意点
「秋鈴」は山形県以南のブドウ栽培地域で栽培が可能ですが、試作を行った岩手県では凍害による枯死が認められ、他の寒冷地においても発芽不良が発生したことから、耐寒性は低いと考えられます。
施設栽培用の品種であるため、収穫期まで降雨条件を避ける栽培環境が望ましいです。自然状態で種なしのため、種なし化のためのジベレリン処理は必要ありませんが、幼木時(樹齢2~4年)は果粒の肥大が劣るので、樹冠拡大を行って樹勢を落ち着かせることが大切です。なお、果粒肥大のためのジベレリン処理の植調剤登録がありませんので、注意が必要です。
執筆者
福岡県農業総合試験場 果樹部
白石美樹夫
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