複合病害虫抵抗性で果実品質に優れるメロン新品種「アルシス」
2012年04月25日
●育成の目的
メロン産地では、メロンの重要病害であるうどんこ病、つる割病や主要害虫であるワタアブラムシの発生が問題となっています。また、病害虫抵抗性に加えて、高い果実品質を兼ね備えた品種が強く要望されています。そこで、うどんこ病、つる割病およびワタアブラムシに対する抵抗性に加え、優れた果実品質を有するメロン品種の育成に取り組みました。
●育成の経過
2005年に、野菜茶業研究所が選抜した複合病害虫抵抗性メロン固定系統と、(株)萩原農場生産研究所が保有する優良メロン固定系統を利用して試交系統を作出し、複合病害虫抵抗性で、果実品質に優れるアールス系F1品種を育成する共同研究を開始しました。いくつかの交配組合せの中で、(株)萩原農場生産研究所育成の「HGMP-2」を種子親とし、野菜茶業研究所育成の「AnMP-5」を花粉親とする試交系統は、うどんこ病、つる割病およびワタアブラムシに抵抗性で果実品質に優れ、アールス系メロン品種として有望であると評価されました。本系統に「アルシス」と命名し、2011年に品種登録出願(出願番号26036号)しました。
●品種特性
「アルシス」は、うどんこ病(レース1およびレースpxA)、つる割病(レース0およびレース2)に抵抗性を持ちます(表1)。ワタアブラムシが増殖しにくく、感受性品種で認められる縮葉が発生しません。
表1 「アルシス」の病害虫抵抗性
ワタアブラムシ抵抗性検定のようす
左から 「雅春秋系」、「アルシス」、「アールス輝」
感受性品種「雅春秋系」では葉の縮葉が認められる
「アルシス」の果皮はわずかに緑がかった灰色で、果実重は1,800g程度、果実の外観は良好です(表2)。果実の内部品質は、「雅春秋系(みやびしゅんじゅうけい)」と同程度に優れ、食味は良好です。果肉は淡黄緑色で、果実の糖度は「雅春秋系」に比べて同等かやや高く、果実の日持ち性は、野菜茶業研究所と愛知県農業総合試験場が共同で育成した複合病害虫抵抗性品種「アールス輝」より長く、「雅春秋系」と同等か、やや優れます。
表2 「アルシス」の果実特性
●栽培上の留意点
「アルシス」は、ガラス温室やビニールハウス内での栽培が必要な、立ち作り専用のアールス系品種です。半促成作型や普通作型ではネットの発現が不安定になりやすいことから、抑制作型に適します。うどんこ病のレースによっては罹病する場合があります。メロンえそ斑点病や、つる割病のレース1や1,2yに抵抗性がないため、発生が懸念される圃場では、抵抗性台木の利用や土壌消毒等の対策が必要となります。種子は、(株)萩原農場生産研究所から販売されています。
執筆者
独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構
野菜茶業研究所 野菜育種・ゲノム研究領域
杉山 充啓