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いもち病にごく強く、おいしいイネ品種「中部125号(ともほなみ)」

2011年07月11日

●研究の背景とねらい

 いもち病は稲作で最も重要な病害の一つであり、その対策は品種改良の長年の目標でした。
 愛知県農業総合試験場山間農業研究所(標高505m)は、冷涼多湿な気象条件のいもち病常発地で、安定したいもち病抵抗性を発揮する圃場抵抗性遺伝子を利用した育種を行っています。
 いもち病圃場抵抗性と「コシヒカリ」並の極良食味特性の結合は、これまで困難とされてきました。しかし、(独)農業生物資源研究所、(独)農業・食品産業技術総合研究機構作物研究所との共同開発により、近年進歩の著しいゲノム情報を利用することで、陸稲「戦捷」の持ついもち病圃場抵抗性遺伝子pi21と「コシヒカリ」並の極良食味特性を併せ持つイネ品種「中部125号(ともほなみ)」を育成しました。その育成の経過と特性をご紹介します。


●育成の経過

 「中部125号(ともほなみ)」は2001年に「稲系IL946(良食味品種「ミネアサヒ」と「戦捷」の後代)」を母、「コシヒカリ」を父として交配し、「コシヒカリ」を戻し交雑した後に、DNAマーカーによる遺伝子型調査と食味検査を繰り返し、「コシヒカリ」並の食味でいもち病に強い系統として選抜育成されました。



「中部125号(ともほなみ)」の系譜図


●特性の概要

(1)形態的及び生態的特性
 出穂期は「コシヒカリ」よりもやや早く「チヨニシキ」と同等で、温暖地中山間地では"中生の早"に属します。稈長は「コシヒカリ」よりも4cm程度短く、穂長は「コシヒカリ」とほぼ同等です。耐倒伏性は「コシヒカリ」より強く"中"で、耐冷性は"やや強"、穂発芽性は"難"です。収量性は温暖地中山間地では「チヨニシキ」と同等で、平坦部では「コシヒカリ」と同等か、やや多収です。


主な特性

調査年次:平成19~20年



立毛状況 左 :中部125号(ともほなみ) 右 :コシヒカリ


(2)いもち病抵抗性
 圃場抵抗性は葉いもちでは"極強~強"、穂いもちについては"強"です。本品種は「戦捷」由来のいもち病圃場抵抗性遺伝子pi21を保有しているため、「コシヒカリ」がずり込む(いもち病で枯れ込む)条件でも圃場抵抗性を十分に発揮できます。


いもち病抵抗性



いもち病激発条件での発病程度 左 :コシヒカリ 右 :中部125号(ともほなみ)


(3)食味特性
 「中部125号(ともほなみ)」の食味は、光沢・粘りが強く甘味があり、「コシヒカリ」と同等です。これは、戦捷の圃場抵抗性遺伝子に強く連鎖している食味を落とす因子を持たない個体を、DNAマーカーによる遺伝子型調査で選び出したことにより達成されています。


食味特性
201107tomohonami_hyo3.jpg
注) 2005、2007、2008年の3カ年の平均




中部125号(ともほなみ)の食味と遺伝子型
Pi21遺伝子の下流側が戦捷型だと食味が劣る(福岡、坂ら、2009)


●成果の活用と種子購入について

 「中部125号(ともほなみ)」は平成23年度から一般栽培が開始され、全国各地で栽培が始まっています。
 種子の購入については 愛知県農業試験場山間農業研究所稲作グループ(電話:0565-82-2029)にお問い合わせいただくか、(独)農業・食品産業技術総合研究機構 作物研究所ホームページ(独)農業生物資源研究所ホームページをご覧下さい。
(本品種は農林水産省指定試験事業及び新農業展開プロジェクトの成果です)


(参考 ▼新しい技術「DNAマーカー選抜」から生まれた品種


執筆者
愛知県農業総合試験場 山間農業研究所 稲作グループ
水上 優子