さまざまな作物でアブラムシ防除に有効な「飛ばないナミテントウ」
2011年04月21日
研究の背景とねらい
テントウムシ類は、重要害虫アブラムシの天敵として知られています。その中でもナミテントウは、多種類のアブラムシをたくさん食べることや、大量飼育が容易であることなどの理由から、アブラムシ防除への利用が検討されてきました。
しかし、ナミテントウの成虫は、放すとすぐに飛んで、作物上から離れてしまうという問題がありました(写真1)。
そこで、遺伝的に飛翔能力の低いナミテントウの系統(飛ばないナミテントウ)を作出し、アブラムシ防除に利用するための研究開発に取り組みました。
(写真1)作物上から飛翔してビニールハウスの天井に移動したナミテントウ。黒い点が、ナミテントウ成虫
特徴とメリット
昆虫の飛翔能力を測定する装置を使って、約100頭のナミテントウ成虫の飛翔能力を測定し、その中で飛翔能力の低い個体を選抜するという操作を世代ごとに繰り返すことによって、飛ばないナミテントウの系統を育成しました。
この飛ばないナミテントウは、通常の飛ぶ能力を持つナミテントウと同様に翅(はね)がありますが、その翅をはばたかせることができないために、飛翔できなくなっています。飛んで逃げられないことによって、飛ぶ能力を持つナミテントウに比べると作物上によく定着しており(図1)、高いアブラムシ防除効果を発揮することが、露地ナス栽培条件で確認されています(図2)。また、この飛ばないナミテントウの有効性はナスだけでなく、コマツナやキクなど、多くの作物で確認されています。
(図1)露地ナス栽培での飛ぶナミテントウ(上図)と飛ばないナミテントウ(下図)の定着率の違い
(図2)露地ナス栽培圃場での飛ぶナミテントウおよび飛ばないナミテントウによるアブラムシ抑制効果の違い
研究成果の活用や普及の方法
飛ばないナミテントウは施設だけでなく、露地でもアブラムシ防除に有効です。そのため、飛ばないナミテントウを実用化し、普及することによって、これまで化学農薬に頼らざるを得なかった多くの作物とその栽培環境で、環境負荷低減が期待されます。
また、登録薬剤が少ないために、防除手段が限られているマイナー作物に対しても、十分に適用できると考えられます。
現在、施設野菜類での実用化を目指し、飛ばないナミテントウを生物農薬として登録するための手続きを進めております。今後は低コスト化や環境への影響評価など、露地で飛ばないナミテントウを実用化するための研究開発に取り組んでいく予定です。
執筆者
(独)農業・食品産業技術総合研究機構
近畿中国四国農業研究センター
世古 智一