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高温条件下でも玄米品質が優れる極良食味の水稲新品種「元気つくし」

2010年09月10日

●研究の背景とねらい

 近年、地球温暖化の進行により、国内においても、水稲の登熟期間における気温が高まる傾向にあります。その結果、「ヒノヒカリ」を始めとする県産米の多くの品種は、白未熟粒※1の多発等によって、外観品質(検査等級)が低下して深刻な問題となっており、高温耐性に優れる水稲新品種の育成が課題となっていました。

 そこで福岡県では、高温登熟性に優れ、かつ食味も優れる品種の育成に取り組み、新品種「元気つくし」を育成しました。ここでは、育成の経過と特性についてご紹介します。

※1 乳白粒、心白粒、背白粒、基白粒等、玄米が白く濁った不完全な登熟をした米の総称。検査等級格下げの要因となります



左 :元気つくし(ちくし64号) / 右 :ヒノヒカリ


●育成の経過

  「元気つくし」は福岡県農業総合試験場において、早生の熟期で高温登熟性'強'、高品質、極良食味品種の育成を目的に、早生、極良食味の「つくしろまん」を母、早生、多収、高品質の「つくし早生」を父として、1998年7月に人工交配を行った組合せより育成されました。


「元気つくし」の系譜図
「元気つくし」の系譜図


●特性の概要

(1)形態的および生態的特性(表1)

 「ヒノヒカリ」と比較して、移植時の苗丈はやや長く、止葉の葉色は'やや淡い'。脱粒性、穂発芽性は「ヒノヒカリ」と同程度の'難'です。

 出穂期と成熟期は、「ヒノヒカリ」より6~10日程度早く、福岡県の熟期区分で'早生'に属します。耐倒伏性は「ヒノヒカリ」と同程度の'やや弱'です。収量性は、「ヒノヒカリ」と同程度です。穂いもち圃場抵抗性は同程度の'やや弱'です。


主要な農業特性
(表1)主要な農業特性


(2)高温登熟性 
 高温耐性評価施設※2で試験した「元気つくし」の白未熟粒歩合(各白未熟粒の発生割合の合計)は、3カ年ともに10%以下で、白未熟粒の発生は極めて少ない結果でした(図2、写真2)。また、同施設で栽培した2007年産米の検査等級についてみると、「ヒノヒカリ」が3等であったのに対し、「元気つくし」は1等でした。



高温耐性評価施設
※2 水田に35℃の温水を終日掛け流し、人工的に高温登熟条件をつくる施設


元気つくしの高温登熟性
(図2)元気つくしの高温登熟性
1)登熟温度は出穂から20日間の平均気温
2)白未熟粒は乳白粒、背白粒、基白粒(基部未熟粒)等の総称
3)白未熟粒歩合が10%以下は検査等級「1等」の目安


  
(写真2)高温耐性評価施設で栽培した玄米 ( :元気つくし /  :ヒノヒカリ)


(3)食味特性 
 「元気つくし」の食味は、炊飯米は粒がしっかりして光沢があり、粘りが強いのが特長で、食味総合評価は「ヒノヒカリ」より優れます。また、冷飯および1年間室温貯蔵した米(古米)の食味試験も良好で、安定した食味特性を有します。(図3)



(図3)「元気つくし」の食味


●成果の活用について

 「元気つくし」は平成21年産より一般栽培が開始され、福岡県内で販売されています。(作付面積は385ha、写真3)。
 平成21年産米検査等級の1等米比率をみると、県産米の平均が35.9%であったのに対し、「元気つくし」は94.4%と極めて高い結果でした。
右 :(写真3)「元気つくし」のパッケージ


●今後の普及の見通し

 平成22年産は約1,200haが作付けされており、福岡県では平成23年以降も作付を順次拡大して、「夢つくし」と並ぶブランド品種に育てる予定です。


執筆者 
福岡県農業総合試験場 農産部 水稲育種チーム
和田卓也 


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