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ジューシーなナスの新品種「サラダ紫」

2008年01月08日

 日本の伝統的な夏野菜であるナスは、出羽小なす、京の加茂なす、泉州水なす、博多大長なすなど、全国各地で、その地域の気候と文化に合った独特の地方品種が育成されてきました。しかし、いずれも加熱調理や漬け物といった二次加工が前提となっており、そのまま生食利用できる品種は育成されてきませんでした。


 そこで、地産地消を強力に推進している神奈川県では、収穫後、手を加えずに、そのままサラダとして利用できるナスの新品種の育成に、株式会社サカタのタネと共同で平成15年から取り組んできました。そして、できあがったのが、「サラダ紫」 です。


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写真3


育成の経過
 「サラダ紫」の育成には、育種のスピードアップを図るため、すでに育成されている優秀な品種を親品種として用いた、一代交雑(F1)手法を適用しました。


 まず、平成15~16年の2年間で、全国各地から収集した有望系統と、(株)サカタのタネがネパールから導入した房なり系統をもとに育成した系統などを用いて、200を超えるF1系統を育成しました。同時に、F1採種とF1組み合わせ検定栽培を並行して進めながら、当初の育種目標に合った有望なF1系統を絞り込んでいきました。

 平成17年には、果実品質には差はありませんが、果形が一般的な長卵型のF1系統と、特徴的な巾着型のF1系統の2系統まで絞り込むことができました。そこで、翌平成18年には、この2系統について、所内で生産力検定と品質評価をおこなうとともに、県内の生産者の方々に試作をお願いして、実用栽培したときの生育特性と消費者の反応を調査しました。


 その結果、ユニークな巾着型の果形を有するF1系統が、差別化しやすく直売には有利であることが明らかになり、これを最終選抜系統として育種を終了しました。

 平成19年には、積極的な現地試作を進めるとともに、詳細な特性検定栽培をおこない、名称を「サラダ紫」として、現在、品種登録申請をしているところです。


品種特性
 「サラダ紫」の特徴は、なんといっても多汁質でさくさくした食感の果実にあります。平成19年に行った特性検定栽培で、以下のような特性が明らかになりました。

(1)やや晩生であるが、立性で伸長性がよく(写真1)、葉の大きさや茎の太さは対照品種と同等であるが、葉茎は濃い紫色で、刺(とげ)の発生がやや多い。
(2)1花房当たりの着生花数が3~5花と多い(写真2)。この場合、商品性のある果実は2~3番花まで収穫できる。


saladamurasaki_image1.jpg  saladamurasaki_image2.jpg
 :写真1 /  :写真2


(3)収穫適期の果実は120g前後で、果形は巾着型、へたは濃紫色(写真3)、果肉は極めて多汁質で、比重が0.9(一般品種は0.6、泉州水なすは0.85)と顕著に重い。また、一般品種に比べ糖含量も多い。
(4)収量は、1果重が重いため「千両2号」と比べると、10%程度多い。ただし、果形が巾着型ということもあり、変形果の発生がやや多い。


栽培上の留意点
 「サラダ紫」は果実に多量の水分を含むため、水分の豊富な圃場に作付けするか、灌水設備を整えた圃場で栽培する必要があります。

 また、草勢を維持するために、追肥の頻度を多くし、肥切れしないような肥培管理が必要です。
 暑さには強いですが、低温にはやや弱いので、早植えするならトンネル被覆して保温する必要があります。晩秋まで栽培を続ける場合は、9月以降は強い整枝管理をしないことがポイントです。


生産者、消費者からの期待
 「サラダ紫」は、果実を切った後も変色しにくく、サラダ感覚でそのまま食べても大変おいしい、全く新しいタイプのナスです。

 現地での試験栽培では、その食味の良さが消費者に高く評価され、多くのリピーターが生まれました。また、試作した生産者からは、直売の目玉品目として経営にぜひ取り入れたいという積極的な声が多数寄せられました。

 平成20年度以降、県内各地域での本格的な栽培に向けて、「サラダ紫」の積極的な普及を進めていく予定です。


執筆者
神奈川県農業技術センター野菜作物研究部
北 宜裕


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