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注目の農業技術



複数の防除技術を併用して難防除病害を防ぐ「レタスビッグベイン病の防除」 

2007年11月22日

レタスビッグベイン病とは
 レタスビッグベイン病は、植物ウイルスであるミラフィオリレタスウイルス(MLBVV)の感染による病気で、葉脈周辺の色が薄くなり、葉全体が網目状になります。MLBVVは土壌中に生息するオルピディウムという菌類によって媒介されます。


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 日本では和歌山県で1973年に発生が認められ、これまでに10県で報告されています。そのほとんどが冬春レタスの産地であり、兵庫県、香川県をはじめとし、千葉県、静岡県、徳島県では今でも発生が拡大しています。


防除技術の開発
 レタスビッグベイン病は、前述のように土壌生息菌類であるオルピディウム菌によって媒介され、病原ウイルスであるMLBVVはこの菌体内に存在しています。そして、オルピディウム菌は生息に不利な環境条件下では休眠胞子という耐久器官を形成し、好適環境になるまで活動を停止します。

 そのため、休眠胞子内に存在するMLBVVは、不活化することなく長期間に渡って活性を維持し、数年間レタス栽培を中止しても被害を低減することは困難です。

 そこで、近畿中国四国農業研究センター(近中四農研)では、農林水産省のプロジェクト研究(行政対応特別研究および高度化事業)の中で兵庫県、香川県等と共同研究を推進し、幾つかの有望な防除技術を開発してきました。ここでは、その概要を紹介します。


 1.抵抗性レタス品種
 抵抗性品種の利用は、防除するに当たって特別な技術を利用するわけではなく、栽培体系もこれまでとほぼ同様であることから、生産者が最も望む方法です。


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 しかし、レタスビッグベイン病に対して、絶対に病気に罹らないという真性抵抗性を示すレタスは、これまでのところ見つかっていません。

 したがって、現在流通している抵抗性品種は、病気に罹りにくい、という抵抗性を示すものです。
 現在、近中四農研で育成中の抵抗性品種も、同様な特性を示す系統ですが、既存の品種よりも抵抗性程度が高く(図1)、平成22年度までには命名登録する予定で現在育成しています。


2.化学的防除
 化学的防除とは、病原ウイルスではなく、媒介菌であるオルピディウム菌を対象とした農薬の施用を指します。

 現在、チオファネートメチル、TPN、クロールピクリン、カーバムナトリウム塩等がレタスビッグベイン病の対象薬剤として登録されていますが、前者2つと後者2つは施用法が異なります。

 前者は、圃場定植後の潅水の代わりに処理します。定植後に潅水すると、土壌中に存在するオルピディウム菌の休眠胞子または遊走子のうから遊走子が放出され、それがレタスの根に感染するのですが、農薬の潅注により、放出した遊走子が死滅し、その結果としてウイルスの感染が抑制されるものと考えられます。

 一方、後者は他の土壌病害対策としても行われている土壌消毒であり、定植前に処理する必要があります。カーバムナトリウム塩については、その施用法として、マルチャ装着式散布機を使用することにより効率的に作業ができる技術が開発されています。


3.物理的防除
 代表的な方法として、太陽熱利用土壌消毒が挙げられます。効果は非常に高いのですが、夏場の高温時に処理しなければならないこと、夏場に水稲等の作物を栽培している場合には処理ができないこと、処理後にマルチをはがし、レタス定植時には改めて黒マルチを張らなければいけないこと等、数々の問題点がありました。

 そこで、土壌消毒する際に、補助資材として石灰窒素、尿素系ポリマー等を土壌混和することで、処理期間の短縮を図り、9月中旬からの処理でも十分な防除効果を得ることが可能になっています。

 また、被覆フィルムとして黒マルチを使用しても効果が認められ、処理後にフィルムを張り替えることなく定植することが可能となっています。


4.生物的防除
 近年、環境への配慮から、病害虫防除においては、天敵、微生物を利用した防除体系が検討されています。そして、レタスビッグベイン病対策においても、オルピディウム菌のレタスへの感染を阻害する微生物(拮抗微生物)を見いだし、その利用が有効であることを証明しています。

 さらに、防除に当たって新たな作業をすることなく、従来の種子を使用する場合と全く変わらない栽培ができる方法として、レタス種子に微生物をコーティングする技術を開発しています。

 しかし、ここで紹介した微生物及び種子へのコーティング技術は、微生物農薬としての登録ができていないこと等の理由からまだ、実用化には至っていません。


防除技術の利用法
 ここで紹介した防除技術については、その防除効果を確認していますが、ひとつの防除法だけでは完全にレタスビッグベイン病を防ぐことはできません。十分な効果を得るためには、複数の技術を併用すること(体系化防除)が重要であり、複数の防除技術を併用することにより、防除効果は増強されます(図2)

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 人は風邪の予防のために、1)体力をつける、2)室内の換気等により周辺環境を清潔にする、3)マスクをして、病原菌が体内に入らないようにする、などの対策をとっています。レタスビッグベイン病も同様で、抵抗性品種の利用が1)に、物理的防除と化学的防除が2)に、そして拮抗微生物の利用が3)に相当します。


土壌診断技術
 防除法を併用することで、その効果は高まりますが、作業は増すことになります。また、圃場の汚染程度が低い場合には、必ずしも多くの防除技術を使用する必要はありません。

 どの程度の防除をしたらよいのかをレタス作付け前に判断できる方法、すなわち、土壌の汚染程度が把握できる技術が、体系化防除においては重要になります。

 レタスビッグベイン病の場合、オルピディウム菌体内に存在するMLBVVだけが、伝染源としてレタスへ感染することから、土壌中からオルピディウム菌の休眠胞子を分離し、その胞子中のMLBVVを検出する方法が開発されています。

 これは遺伝子診断法によってウイルスの核酸を検出する方法で、ウイルス量が少なくなるにつれて検出されるバンドが薄く(細く)なります(図3)


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(図3 NestdRT-PCR法による土壌中休眠胞子からのMLBVV の検出。汚染程度が低いほど(左→右)、バンドは薄くなる。左端は分子量マーカー)


 現在、この検出法を使用することにより、ほぼ100%発病する激発土壌、約50%が発病する中程度汚染土壌、発病が10%未満の低汚染土壌の判断が可能な段階まで研究は進んでいますが、現場で使用するには、一層のデータの蓄積、繁雑な作業の簡略化についてもう少し取り組む必要があります。


まとめ
 レタスビッグベイン病は、病原ウイルスであるMLBVVがオルピディウム菌体内で安定的に長期間存在できるため、一旦発病すると、たとえ数年間転作してもその圃場からMLBVVを完全に除去することは非常に困難です。

 また、防除によってある程度の効果が認められても、感染株が出現すると、その株が2次汚染源になります。したがって、現時点での本病対策として、撲滅を考えるのはなく、被害を極力抑える、圃場の汚染程度を今以上に高めない、という取り組みが大切と考えます。

 有効な個別防除技術はここで紹介しましたが、これらをどのように組み合わせて、状況に見合った防除体系を構築するかが最も大切なところであり、これからの課題です。


執筆者 
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 近畿中国四国農業研究センター
レタスビッグベイン研究チーム
石川浩一 


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