環境保全と省力化、低コストに貢献する新しい田植え作業技術 -田植え同時作業について-
2007年04月02日
はじめに
ポジティブリスト制度が施行されてから、まもなく1年。この制度は、食品衛生法の改正により導入、実施されている制度であり、基準が設定されていない農薬等が一定量を超えて残留する食品の販売等を原則禁止するという点がポイントだ。残留農薬基準がない農薬にも、0.1ppmという低い数値が基準値として設定されており、基準値を超えると生産物の出荷停止・回収という厳しい対応がとられる。
このポジティブリスト制度対策、そして社会的にも高まりも見せる環境保全への対応は、現場で日々作業に携わる生産者にとっては、関心の高い課題のひとつであろう。
当然、田植え作業の中にも、こういったポジティブリストや環境保全を意識して行わなければならない作業がいくつかある。そのひとつとして気をつけなければならない作業に、育苗時に行う箱施薬剤の散布作業がある。
環境にやさしい箱施薬剤散布

田植え前の作業については、殺虫殺菌剤の処理として、育苗時の箱施薬剤の散布が普及している。苗箱一箱当たり50gという散布量で、長期間にわたる残効性があるため生産者には重宝されてきた。この箱施薬剤の散布に当たっては、周辺の環境に配慮するため、「苗箱の下にビニルシートを敷いての処理」や「使用後の苗箱を用水路で洗わない」といった指導がなされてきた。
しかし、経営規模が大きくなればなるほど、大量に苗箱の処理をしなければならなくなり、つい大雑把な散布をしがちになってしまい、かなりの薬剤が箱からこぼれる事態が起きることもある。ましてや野菜栽培と稲の育苗作業を同じハウスで行っている生産者にとっては、ポジティブリスト制は、もっとも気をつけなければならない注意事項のひとつであるだろう。
このような課題を解決してくれるのが、(株)クボタの「田植え同時箱施用剤散布機」である「箱まきちゃん」だ。4~8条の田植機に対応し、手散布が不要、自動で均一の散布、各種薬剤に応じた散布量を調整できるという特徴を持つ。この散布機を利用すれば、過剰散布やこぼれを防ぐことができる上、余剰苗への無駄の散布を無くし、育苗時の作業の省力化にもつながる。また、ホッパに薬剤を補給するだけなので、薬剤の身体への付着がなく、作業者が安心して作業できるという労働衛生上のメリットもある。
このような理由により、田植え作業の省力化、効率化のみならず、環境対策やポジティブリスト対策にも有効な技術として期待されている。
除草剤も同時に散布可能
さて、最近は、薬害リスクが少なく、効果も安定している田植え同時処理に対応する除草剤が充実してきたこともあり、この「田植え同時箱施用剤散布機」と「田植え同時除草剤散布機」(こまきちゃん:(株)クボタ)を1台の田植機にセットして田植え作業を行うことも可能になった。田植え後に田んぼに入って散布する作業がなくなるので、田植え作業の省力化と環境対策という一石二鳥の効果を得ることができる。特に大規模水田経営にとっては、除草剤と箱施用剤の散布(これに合わせて側条施肥も可能)が同時に可能となれば、「経済性」「能率性」のうえでもかなりのメリットが出てくることは間違いないであろう。
稲作の分野において、安価で使いやすい、この新しい散布機による作業技術の出現によって有効な環境対策、そして省力化等を実現できたことは、稲作栽培の現場におけるひとつの技術革新と言っても過言ではない。
なお、田植え同時散布作業を上手に行うためには、いくつかのポイントがある。実施前には最寄りの普及指導センター等、指導機関に相談のうえ、取り組むことをお勧めする。
(全国農業システム化研究会事務局)
(月刊「日本の農業」2006年12月号(全国農業改良普及支援協会)から一部加筆修正の上掲載)