おいしさとかわいさの追求 何度でも足を運びたくなる話題のイチゴ園
2025年03月28日
「かわいい! 何のお店だろう」
初めて見た人なら思わずそんなふうに言い、車を降りて写真に収めたくなる。それが金井いちご園の直売所だ。
高原のペンションを思わせるログハウスには、壁いっぱいにイチゴのペイント。看板もオブジェもデコレーションも、イチゴ、イチゴ、イチゴ。かわいいが凝縮された、まさに"映えスポット"なのだ。
代表の金井繁正さんは脱サラして新規就農し、今年で18年目を迎えるが、その間、群馬県が毎年開催するイチゴ品評会で、金賞6回、銀賞6回、銅賞2回を受賞する実力者である。
そんな金井さんに「夢がある仕事」についてお話を伺ってみた。
左 :店舗外壁には新進気鋭のアーティストによる壁画が。数字の「15」は「イチゴ」と読む
右 :明るく開放的な店内
お客さんの喜ぶ顔を思い浮かべて
金井いちご園は、作付面積92aで、大型鉄骨ハウス6棟(栽培用)、パイプハウス7棟(育苗用)。年間約55tのイチゴを生産。年商は1億を超えている。今年は10種類を栽培しており、ふるさと納税品にも選ばれている。特に人気なのが、県育成促成品種「やよいひめ」だ。
従業員は正社員3名、オンシーズンには20名ほどのパートを増員する。
有機肥料中心の土作り、米ぬかやフスマを大量投入し、還元方式で土壌殺菌。勉強会にも積極的に参加し、近年では、二酸化炭素の濃度調整やミスト噴霧による光合成促進に取り組むなど、おいしいイチゴ作りに余念がない。その原動力は何といっても「お客さんの喜ぶ顔」である。
良いものだからこそ安売りはしない
直売所で販売するイチゴは、基本的に贈答用。クッションに丁寧に並べ、パッケージにもこだわっている。もちろん、価格はそれに比例するが、「良いものでも安く売れば、ただ安いものを作っているだけ。良いものを作っている自信があるからこそ、それに見合った金額で販売する」と金井さんは話す。
この考え方は、金井さんに就農のきっかけを作ってくれた妻の叔父にあたるイチゴ農家の影響で、その農家は6次化がブームになる前から、こうした販売方法を取り入れていた。農業をスタートした時点で同じスタイルでやりたいと考えていた金井さんは、ハウスと直売所の計画を同時進行していた。
ピンチをチャンスに
経営も順調に伸びていた2016年、雪害によってハウスの3分の1が倒壊するというピンチに見舞われる。規模を増やし「これから行くぞ!」という時のことだった。お客さんはいるのに提供するイチゴが足りない歯がゆさ、悔しさ。その中で金井さんは「何かできることはないか」と考え、スムージーの販売、6次化に乗り出す。
当時は小さな6畳ほどの直売所だったが、2年後、高崎市の6次化推進事業を利用し、加工場と共に現在の直売所を建築。徹底してスムージーの販売を行った。
左から 王様のいちごパフェ、ハロウィン限定商品、ストロベリーボンボン
積極的に視察に出かけ、可能な限りイチゴ飲料を試飲。その時「これは絶対に成功する」と確信。なぜなら、イチゴの味には絶対に自信があることと、農家の作るスムージー販売はほかに取り組みがなかったからだ。
スムージーの販売は通年営業。オフシーズンでも1日数万の売り上げがあるが、イベント期では100万円を超えるという。まさに、ピンチをチャンスに変えたというわけだ。
スムージーはテイクアウトのみなので回転率が良く、これが好調な売り上げの一因となっている。
イチゴ農家だからこそできること
スムージーとひと口にいっても、牛乳、豆乳、ヨーグルトの何で割るか、また、トッピングには数種のアイス、削りイチゴ、イチゴパウダー、生クリーム、練乳、そしてさまざまなソースが選べる。さらには、LINE登録をするとイチゴの品種を選べるという特典もある。お客様一人一人が自分だけの一杯をカスタマイズでき、その組み合わせは、何と100通りを軽く超えてしまう。
それだけではない。夏はソーダ、冬にはホットイチゴミルクといった季節限定商品、バレンタイン、母の日、ハロウィン、ブラックフライデーなど、さまざまなイベント時にも限定商品を提供している。つまり、何度行っても、その都度新しいおいしさに出会え、わくわく体験ができるのだ。
また、季節販売のイチゴ大福も好評で、1日400個を売ることも。専用の大福を仕入れて、切り込みやイチゴの差し込みは毎朝自分たちの手で行う。そのため、ほかではまねできない、新鮮イチゴが主役の大福を販売できるのだ。
左 :イチゴが主役!の、いちご大福
右 :どこにカメラを向けても映えスポット
SNSを味方につけて
金井さんはSNSを積極的に活用している。商品画像はもちろんのこと、農作業やイチゴの生育状況などを動画としても投稿している。それによって、ユーザーはより身近にイチゴを感じることができ、「行ってみたい」「また行きたい」と思うのだ。
投稿につける#(ハッシュタグ)にも工夫がなされている。#はキーワード検索にヒットする役割があるが、単にイチゴに関するキーワードだけでなく、#お土産、#温泉、#帰り道、#ドライブ、#楽しい、#ついでに、など、さまざまなワードを用いている。それによって、温泉帰りの旅行客や、ドライブのついでに立ち寄る場所を探すユーザーにヒットするわけだ。やよいひめをひいきにしているタレントがいれば、その名前も#に入れる。情報アンテナを常に張っているからこそできる技である。
左 :作業風景もSNSに投稿。モノクロにしてオシャレ感アップ
右 :閉店後はライトアップ。それを写真に収める人も多数
また、毎回同じ#をコピペして使う投稿者が多いが、金井さんは、その日によって内容を変えている。
SNS上には金井さん自身が発信したものだけでなく、イチゴ園を訪れたお客さんが「おいしかった!」「今日はこれを飲んだ」というように投稿してくれるので、さらに宣伝効果が広がっている。お客さんのほとんどは、「この場所に来る自分が好き」。そのハートをしっかりつかむため、金井さんは妻や女性スタッフの意見も反映させて「自分たちも行きたくなる場所」であること、「かわいい」を極めていることを大切にしている。
夢のある仕事としての展望
金井いちご園では、5年前にJGAP認証を取得。さまざなメリットを感じているが、それをどう消費者に伝えていくかを常に考えている。
高崎では、年々外国人旅行者が増加している。草津、伊香保、万座という名湯へ続く道沿いに金井いちご園は位置しているので、今後はイチゴ狩りの規模を増やし、観光部分を手厚くしていきたいと考えている。さらに、人員が確保できれば、5年以内にドライブスルー専門の直売所を作るという構想もある。とはいえ、それらは全て、品質の高いイチゴを安定生産することが大前提だ。
金井さんは研修生の受け入れにも積極的で、既に4名を独立に導いている。
「夢のある仕事だと思ってもらえるよう、今の自分のスタイルを築いている」という金井さん。若きリーダーの挑戦はこれからも続いていく。(ライター 松島 恵利子 令和5年11月29日取材 協力:群馬県西部農業事務所普及指導課)
●月刊「技術と普及」令和6年4月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載
金井いちご園 ホームページ
群馬県高崎市我峰町279-2
TEL 027-344-1077