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農業経営者の横顔



ブランドの「丹波黒」で丹波篠山の農業をさらに活性化したい!

2023年12月18日

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石田英正さん、石田友子さん (兵庫県丹波篠山市 農業生産法人有限会社みたけの里舎)


 丹波篠山は京阪神地区に暮らす人たちにとって、おいしい作物の宝庫というイメージがある。黒豆(黒枝豆)、山の芋、丹波松茸、丹波栗、丹波茶、丹波牛、猪肉といった産物がすぐに思い浮かぶ。関西圏のテレビや雑誌では、季節ごとに旬の食材特集が組まれるが、丹波篠山産の作物は必ず紹介されている。多くの人々が観光に訪れる地でもある。
 豊富な特産物の中でも特に有名なのが丹波黒の黒豆と枝豆だ。黒枝豆はたちまち売り切れる人気商品で、加工品の黒豆の煮豆は正月のおせち料理には欠かせない。丹波黒大豆の生産と6次産業化に取り組む有限会社みたけの里舎の代表取締役、石田英正(えいせい)さんに農業経営についてお聞きした。


父親から引き継いだ農業
 有限会社みたけの里舎の法人化は1991年1月1日。英正さんの父親が立ち上げた会社だ。法人化前まではグランドカバープランツを栽培し、バブル経済期には大きな収益を上げていたという。「毎週、大きな10tトラックが苗を引き取りにきたのをよく覚えています。1992年にバブル経済が崩壊しますが、親父はそれまでに得た資金を確保していたので、本来やりたかった米づくりへと転換できたのです」。
 会社設立当時、まだ11歳だった英正さんは、やがて兄とともに従業員となって働き出した。新しい品目を作ろうと、父子でハバネロやアーティチョークなどに挑戦したが、水があまり豊富ではなく粘土質の土壌だったことから、「やはり黒大豆づくりが最適だ」と軌道修正した。


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 :丹波黒枝豆の収穫作業
 :さやを確認する英正さん


 丹波の黒大豆「丹波黒」は江戸時代から栽培が始まり、幕府や朝廷への献上、年貢で納めた記録が残っているこの地方の特産品。通常の大豆の百粒重が約30gであるのに対し、丹波黒は80~90gと3倍近い。煮ても皮が破れずによく膨らみ、艶やかな漆黒で、もちもちとした食感が特徴だ。丹波黒の枝豆の収穫適期は、出荷解禁(2022年は10月5日)から20日余りと短く「幻の枝豆」と呼ばれている。枝豆の後には正月用の黒豆が収穫され、全国に出荷されていく。
 「水稲は飼料用米、加工用米を含めて35haで、丹波黒の枝豆2haと黒豆が6ha。近年は地域の高齢化が進み、請負も多くなってきています。耕作放棄地を作りたくないので、できるかぎり当社で請け負っています」と語る英正さんには地元への熱い思いがある。


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福利厚生がしっかりした会社であることが大事
 現在、みたけの里舎は英正さんと妻の友子さん、英正さんの兄の3人が役員を務め、従業員は20歳代の4人。いずれも地元出身者だ。「農業法人は勤務時間が長くて仕事内容がきついといった印象がありますが、うちは会社として勤務体制や福利厚生面をしっかり整備しています」。
 春と秋以外は週休2日制、8時から17時までの就業で残業はない。秋から冬の繁忙期であっても週1日の休みは必ず確保している。スタッフが家庭を持ち、子育てをするようになったとしても、両親が子どもの世話ができる環境を確保しておくことが大事だと考えているからだ。

 「子どもを保育園に送り届けてから出勤したり、熱を出したから早く帰りますってこともあるでしょう。やはり、会社の近くに住んでいるのが一番。丹波篠山は大阪や神戸、京都まで1時間半あれば行けます。地理的に恵まれているから、多くの人にとって住みやすいはずです」。さらに総合病院・大学病院や学校、大型スーパーなどが揃い、住環境は整っている。「だからね、若者には都会から移住して、ぜひうちで農業をやってほしい」と英正さんは笑う。


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 :枝豆の調製作業
 :スタッフと打ち合わせ


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 今後、水稲を100haまで、黒大豆の耕作面積も拡大し、従業員も増やして会社を大きくしていきたいという。「今のスタッフ4人には大きな信頼を置いています。収穫作業を彼らと一緒にやりながら、同時に私は加工品の製造開発に注力することができますから」。耕作面積の拡大をめざしながら加工品の開発・製造に力を注ぐのは、奥様である友子さんの存在が大きい。


加工品づくりにこだわる
 友子さんは加工部のリーダーとして、さまざまな農作物の開発・加工を受け持っている。素材の良さを大事にしながら、今までにない商品、新しくておいしい商品の開発にも力を入れている。
 「黒豆の煮豆など、昔から作られている地域の定番商品は、やはり人気があります。そうした定番商品も大事ですが、私は季節ごとに収穫されたものを自分たちの手で加工品にしたくて、あれこれと工夫して商品づくりをしています」と友子さんは言う。例えば、調理に便利なタケノコの水煮や炒り豆、煮豆、黒豆きなこなどの加工品は、月に一度、神戸元町の「水曜市」に出店し、どの商品も好評を得ている。市内や大阪の土産物店にも商品を置き、個人注文にも応えている。冬になると餅の販売も始まる。


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加工場


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 :丹波黒大豆と大納言小豆
 :こしひかりのポン菓子2種


 「実は今年、新しい商品を開発したんです」と、友子さんはまだラベルが貼られていない容器を見せてくれた。見た目はペースト状で練りゴマのような感じだ。「これは黒豆ヴィーガンバターといって、動物性のものが一切入っていない植物性のバターなんです」。ダイエットやヴィーガンの食生活に取り組んでいる人たちのことが常日頃から気になって、試行錯誤して完成させた商品だという。創意工夫を重ねて丹波篠山の名産品にしたいというのが、今の友子さんの願いだ。


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 :黒豆の煮豆
 :新商品の「黒豆ヴィーガンバター」


丹波篠山への郷土愛こそが原動力
 社名の「みたけ」は、多紀連山の主峰である御獄(標高793.4m)から取られたものだ。鎌倉から室町時代にかけて丹波修験道の中心地だったこの霊山は、丹波黒の畑からもよく見える。「社名は親父がつけたんですよ。農業が好きで、地域を愛した人でした」。いつも御獄を眺めながら畑仕事をしているという。「最近、急に郷土愛が強くなってきたみたいです」と友子さんが笑うと、英正さんは照れたように話題を変えた。


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丹波黒大豆の圃場から。中央奥に御獄が見える


 「丹波黒豆は枝が非常に太くて、機械収穫が難しいんです。もちろんスマート農業には興味がありますし、この冬にはドローンも取り入れたいと計画しています。だけど、黒豆に関しては丁寧な手作業が必要で、何より人の目と経験が大事。おいしい枝豆は全国各地にありますけど、やはり丹波篠山の黒枝豆が私は最高だと思っています。今後も黒大豆を作り続け、丹波篠山の名を今以上に広めていきたいですね」と声に力がこもる。

 まだ41歳、生産と加工の両輪を回しながら、地域農業を活性化させる担い手として、英正さんには大きな期待が寄せられている。(ライター 上野卓彦 令和4年9月13日取材 協力:兵庫県丹波農業改良普及センター)
●月刊「技術と普及」令和4年12月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載


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