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農業経営者の横顔



茶葉も人も、個性を活かしてこそ輝く。九州の山間地で多種多様なお茶づくり

2023年06月02日

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宮﨑亮さん (宮崎県五ヶ瀬町 株式会社宮﨑茶房)


 「移住者の聖地になっている」「つくってないお茶はないのでは?」。九州山脈のただ中の山懐にある宮﨑茶房に、今注目が集まっている。九州は宮崎県にありながら、ここ五ヶ瀬町の平均標高は620m、平均気温は12.7℃。4月の茶の入札にも間に合わなかったという高冷地だ。この地で生き残りをかけて多種多様なお茶をつくってきた宮﨑茶房の取り組みを代表取締役、宮﨑亮(あきら)さん(53歳)に聞いた。


四代目の亮さんが掲げた「飲んで健康になれるお茶づくり」
202304yokogao_miyazaki17.jpg 宮﨑家のお茶栽培は、昭和初期に60aからスタートし、少しずつ面積を広げていった。1987年に亮さんの母・麗子さんの友人が農薬事故で亡くなったことをきかっけに、化学農薬・化学肥料不使用のお茶づくりを始め、2000年には有機JAS認証を取得した。
 「ここは寒いから、経済連のお茶の入札に間に合わないんですよ。だから茶農家は、昔から共販に少しは出すけれど、自分で問屋を探したり、小売りをしたりしていた。自分の代になってからは、一貫して『飲んだら元気になるようなお茶づくり』をやってきたけど、有機栽培茶に理解が得られず、大口の取引先を切られたこともありました」と亮さん。
 営業や小売りを始めたが、町内でも小売りは最も後発で、釜炒り茶では入り込む余地がない。時代の流れの中で、緑茶の売上が落ちてきた時でもあった。そこで「紅茶なら商機があるのでは」と2000年から紅茶の製造を開始。ここから亮さんの多種多様なお茶づくりが始まる。
 「われわれの地域は寒い分、虫が少なくて有機がやりやすかった。茶園も140カ所と分散しちょるき、虫も大発生もせんしですね。病気に強い品種を選定すること、記録をきちんとつけるスタッフがいることで、規模が大きくなってもできてるんです」。
 高齢化で引退した農家の土地も預かるようになり、現在、茶園の総面積は13.5ha、うち12haが有機JASの認証を得ており、残りの1.5haも転換期間中だ。
右上 :すり鉢状で急勾配の茶園


多種多様な品種を栽培し個性を活かした製品づくりを
 当地特有の釜炒り茶は、九州の山間部の一部で生産されている。生産量は緑茶のうち1%しかなく、幻のお茶といわれるほど。市場が小さいため、仕上げや火入れも自前で行う。「釜炒り茶をつくっとったからこそ、発酵茶は取り組みやすかったよ。ほうじ茶も烏龍茶も、炒りの工程があるから」。
 2007年には将来の継承も見据えて、優秀な人材を集めたいと法人化に踏み切った。宮﨑茶房では一番茶、二番茶だけでなく、8月の三番茶、9~11月の秋芽を活用した秋冬番茶も摘む。収穫や製造期間も長く、機械の入らない段々畑も多いため人手がいる。その人件費を差し引いても、10a当たりの売上は宮崎県の経営管理指針より高い。


202304yokogao_miyazaki3.jpg  202304yokogao_miyazaki16.jpg
 :現在の売れ筋は、釜炒り茶を粉末にした「食べる緑茶」。製菓にも使え、お茶の栄養成分を余すところなく採れる
 :多種多様なお茶のラインナップ


 紅茶に地元の柚子や生姜をブレンドしたフレーバーティーや、烏龍茶、ほうじ茶、番茶など、緑茶だけでなく多種多様なお茶をつくっていることも売上に貢献している。「フレーバーティーをつくるのも早かったけど、俺らがやる時は『お茶に混ぜもんをするなんて何事か!』って空気もあって......。でも、そのあとすぐ生姜ブームが来て、生姜紅茶がバカ売れしてねー。品種もいろいろつくると、釜炒り茶では味が出なくても紅茶ならうまいとか、烏龍茶にしたら見違えるとか、それぞれの個性が生きるんですよ」。

 今や20品種の茶を育てている宮﨑茶房。品種の掛け合わせやフレーバー用の食材との組み合わせ、粉末茶やティーバッグなど製品形態の違いも合わせると、つくったお茶は200種類以上になる。
 製品が増えるとともに、製造ラインも大きくなった。緑茶用品種では難しかった花や果実の香りを出す「ドラム式萎凋(いちょう)機」は、当茶房で実施した試験場の実証試験の中で、試験場と意見交換をしながら導入。省力化と高品質な製品づくりに貢献している。


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 :宮﨑茶房の茶園 /  :山間の製茶工場


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 :釜炒り茶、発酵茶など、製造ライン別に製茶機が並ぶ
 :試験場、カワサキ機工との現地実証試験を行って導入したドラム式萎凋機。良質な発酵茶を効率的につくることが可能に


宮﨑茶房を支える旅人たち。町への移住者も次々と
 茶房には年間を通じてさまざまな仕事がある。2007年に4名だった従業員は、2020年には16名になった。その半数が県外出身だ。家族経営からどう転換していったのか尋ねると「最初は町内の青年団の、祭りの資金稼ぎのアルバイト。うちは人手が足りんやったき、みんなが交代でアルバイトしたらいいやんって」。そこから人を雇うことに家族が慣れていき、その後、県内の人たちや隣町の友人が働きにくると、友人が友人を紹介してどんどん広がっていった。


202304yokogao_miyazaki14.jpg 県外からのアルバイトは、数カ月働く人から数年までさまざま。住み込みで働き、そのまま移住した人も多い。染色家、機織り作家、ミュージシャンなど、個性的な人々が多いのも特徴だ。「茶は工芸作物というくらいで、色や香りを出したり、五感を働かせてつくる。それに茶摘みから製茶、パッキングといろんな仕事があるから、みんな何かしら得意なところがあるでしょ。勤務形態や出勤も自由にして、のびのび働いてもらってます」。

 実際に、各地を旅してきた働き手の情報をヒントに、今や自然食品店に大口取引のある「三年番茶」の製造が始まった。数々の商品企画やオンラインショップでの発信を手がけるのも、芸術的な感性を持った若者たちだ。「先入観のない人たちが自分の感覚で味や香りを追求してね、新しい商品をつくってくれるんです」。

 地元の協力を得て、移住者が古い公民館を住居に改修したこともある。茶房で出会って結婚したカップルも多数おり、独立して茶園を始めた人もいる。「若い人が増えて、町の人も『活気が出ていいね』と喜んでくれてます。ここは町内でも一番奥の集落で、昔からまとまってがんばってきたところ。農家民宿にも取り組んでいたので、よその人を受け入れる素地もあったんじゃないかな」。
右 :目下、大陸由来の後発酵茶であるプーアル茶の製造実験中


農産加工所バーバクラブと連携し、バーバハウスを建設中
 亮さんも出資する農産加工場「バーバクラブ」は町内の女性たちで組織され、高齢者の働く場にもなっている。名物のかりんとうをはじめ、地元の産品を活かしたお菓子などを製造して人気を博している。これらを宮﨑茶房の販路に乗せて販売してきた

 このバーバクラブと連携して、お茶のショップや体験工房、カフェなどを備えた仮称「バーバハウス」を現在建設中。
 「一般の人だけでなく、ここを商談の場にもして、取引先の人たちにも茶園の空気や五ヶ瀬町の魅力、多様なお茶の魅力を感じてほしい」と亮さんはいう。地元の農家とも連携して宿泊型の体験も行う予定だ。


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 :茶房内の商品企画室でお茶を試飲。商談時も亮さん自らがさまざまなお茶をふるまい、解説する
 :建設中のバーバハウス。地元農家のお茶も販売し、地域の観光拠点としても機能するよう計画中


 五ヶ瀬町のある西臼杵(にしうすき)管内では、有機JAS認証された面積が半分以上となっている。多様な発酵茶をつくる農家も増え、皆で情報交換や研修会の場を設けて品質向上を目指しているそうだ。「ほかの農家のお茶もここで飲める、『西臼杵お茶センター』みたいになったらいいね」と亮さんは目を輝かせた。(ライター 森千鶴子 令和3年12月15日取材 協力:宮崎県西臼杵農業改良普及センター)
●月刊「技術と普及」令和4年4月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載


株式会社宮﨑茶房 ホームページ
宮崎県西臼杵郡五ヶ瀬町大字桑野内4966
TEL 0982‐82‐0211