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農業経営者の横顔



牛乳とヤギ乳のチーズを展開! 牧場仕込みのこだわりのチーズを作り 那須町の活性化に貢献したい

2019年07月02日

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髙橋雄幸さん (栃木県那須町 有限会社那須高原今牧場)


 那須連山のふもとに広がる人気の観光地、那須高原で、酪農を営んでいる有限会社「那須高原今(いま)牧場」。その一角に、髙橋雄幸さん、牧場主の次女であるゆかりさん夫婦が立ち上げたチーズ工房がある。搾乳室から直送の新鮮な生乳でチーズを作り、また、牧場内でヤギを飼育し、全国的に珍しいヤギ乳のチーズも展開している。これらのチーズは、数々のチーズコンテストで賞を受賞し、マスコミにも取り上げられるなど、知名度が高まっている。


優れた酪農経営と技術で農林水産祭天皇杯を受賞
201906_yokogao_ima2.jpg 今牧場の歴史は、ゆかりさんの祖父が、入植後に乳牛1頭を導入した昭和25年にさかのぼる。昭和51年には、社長である今耕一さんに経営が移譲。今さんはフリーストール牛舎を建設するなどして牧場の規模を拡大し、さらに地域の酪農家とともに、北海道に育成牧場を設立した。平成6年、自身の牧場を法人化。その後も堆肥化施設を建設して、ふん尿の安全処理、完全利用を確立し、牛の個体管理を徹底することで、乳質の向上と乳量の増加を実現。また、家族経営協定を締結し、家族みんなが働きやすい環境の整備にも取り組んだ。このような酪農の経営と技術が高く評価され、平成10年に農林水産祭の畜産大賞経営部門最優秀賞、そして天皇杯を受賞する。
右 :有限会社那須高原今牧場のチーズ工房外観


 今牧場は現在、成牛200頭、育成牛50頭、子牛30頭、和牛子牛20頭、ヤギ50頭を飼育。牧場部門は従業員5名とパートタイマー2名、チーズ部門は従業員4名の体制。牧場見学や酪農体験なども実施し、酪農教育ファーム認証牧場となっている。さらに、インターシップの受け入れも積極的に行い、次世代の酪農家の育成を図っている。


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左 :髙橋さんが新潟からヤギを連れてきて飼育をスタートさせた
右 :牛舎の衛生管理を徹底し、乳量、乳質を向上させている


長年チーズ作りを学び、牧場内にチーズ工房を設立
201906_yokogao_ima11.jpg そんな今牧場が、新たな酪農経営として取り組んでいるのが、チーズの製造だ。髙橋雄幸さん、ゆかりさん夫妻が、県内初の牧場直営チーズ工房(加工部門)を立ち上げ、スタートした。
 酪農一家に育ったゆかりさんは県の農業大学校で食品加工を学び、卒業後は北海道で4年間チーズ作りの研修を受ける。その後、イタリアに渡り、半年間チーズの修行をした。一方、髙橋さんは新潟の出身。県の農業大学校を卒業後、地元の役場の観光課に勤務し、農業研修で1年間ドイツへ。そこでヤギの飼育やチーズ作りのノウハウを学び、帰国後は、村の特産品作りの担当としてチーズを作ることになった。チーズの知識をさらに深めるために北海道へ研修に行き、同じ志をもつゆかりさんに出会ったという。その後、雄幸さんは役場を退職し、ゆかりさんも実家に戻って今牧場のスタッフとして働き、チーズ工房の設立に取りかかった。
右 :温度、湿度が管理された熟成庫でチーズを熟成させる


工房の隣で搾乳した搾りたてミルクで良質のチーズを作る
 平成22年、農林水産省から6次産業化の認定を受け、工房の準備は順調に進んでいたが、翌年、東日本大震災で被災。「政権が変わり、補助の内容も変更され、事業の見直しをしなくてはならなくなりました」と髙橋さんは振り返る。「わからないことは普及指導員さんや酪農組合さんに相談し、事業計画の策定や収支計画の作成をサポートしてもらいました」。そして平成24年、チーズ工房が完成し、技術を磨いてきた髙橋夫妻のチーズ作りが始まった。


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左 :ヤギ乳のチーズ「茶臼岳」の型詰め作業をする髙橋さん
右 :JAL国際線ファーストクラス機内食に採用された「茶臼岳」(5~11月限定)


 「チーズの品質の8割以上は、ミルクで決まるといわれています。北海道で研修をした時に、フランス人の講師から『良いチーズを作るなら、ミルクを運ぶな』と教わりました。輸送中のわずかな温度変化や空気中に漂う菌が、ミルクの質を変えてしまうからです。ここの工房は、隣が搾乳室で、絞りたてのミルクがパイプラインで運ばれてきます。しかも、自然な傾斜のパイプラインなので、ポンプがエア噛みしてミルクの組織を破壊することもありません。搾りたての良い状態のまま、チーズを作ることができるのは、生産者の強みですね」。


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牛乳製ウォッシュタイプのチーズ「りんどう」(左)と、それを作るゆかりさん


国内外で認められた品質今後は販路の拡大へ
 今牧場は、日本では珍しいヤギ乳のチーズも製造している。牛に比べ、ヤギの乳量は非常に少なく、生産量も限られるが、他の商品と差別化ができ、チーズ工房の看板商品になっている。「ヤギ乳の熟成チーズ『茶臼岳』は、JAL国際線のファーストクラスの機内食に3回採用されました。フレッシュタイプの『朝日岳』も、JR東日本の寝台列車TRAIN SUITE四季島で扱ってもらっています」と髙橋さん。


 牛乳、ヤギ乳のチーズとも、オールジャパンナチュラルチーズコンテストをはじめ、毎年、さまざまなチーズコンテストに入賞。また、雄幸さん、ゆかりさんは、ギルド協会(※)の認証も受けている。夫婦揃っての認証は国内初である。「機内食に採用してもらったり、賞をいただいたりと、自分たちの作るチーズが評価され、自信がつきました。今後は、販路を広げていくことが課題です」。現在は主に、牧場内の直売店、地域の道の駅やレストラン、インターネットで販売をしているが、最近は都内の百貨店やレストランにも進出。観光客が少なくなる冬場は各地の催事場に出店するなど、着々と販売量を増やしている。

ギルド協会 :フランスに本部がある国際的なチーズの団体


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左 :ギルド協会から「ギャルド・エ・ジュレ」を叙任
右 :ヤギ乳のフレッシュタイプのチーズ「朝日岳」は、ジャムやハチミツとの相性も抜群


地元の人と研究会を立ち上げ、チーズで地域の活性化を目指す
 今牧場のチーズには、茶臼岳や朝日岳、りんどう(那須町の花)など、那須町にゆかりのある名称がつけられている。「カマンベールはフランスのカマンベール村、ゴーダはオランダのゴーダ村が発祥で、人々は地元の名前がついたチーズを、愛情と誇りをもって守り続けています。私も同じように、今牧場にしかないできないチーズを作り、大事にしていきたいですね。また、商品に地名をつけると、チーズの説明をする時に、『那須町には茶臼岳があって...』と、町も一緒にアピールできるんですよ」。 


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左 :朝一番に搾った牛乳で作るフレッシュなチーズ「ゆきやなぎ」
右 :今牧場を支えるスタッフ。愛犬を連れているのが代表の今耕一氏


 髙橋さんはチーズ工房の仕事と並行して、地元のパティシエとコラボして、ヤギ乳のチーズを使ったケーキを開発したり、「那須ナチュラルチーズ研究会」を立ち上げて、勉強会や試食会、地域ぐるみのイベントを開催するなどの活動を行っている。「チーズ研究会のメンバーは、チーズの生産者だけでなく、販売する人、応援する人、飲食店のシェフやスタッフなどさまざまです。地域オリジナルの商品開発もしていきたいですね」。髙橋さんのエネルギーは、チーズ作りと那須町の活性化に注がれている。(ライター 北野知美 平成30年2月27日取材 協力:栃木県那須農業振興事務所・経営普及部経営指導担当)
●月刊「技術と普及」平成30年6月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載


有限会社那須高原今牧場 ホームページ
栃木県那須郡那須町大字高久甲5899-7
TEL 0287-74-2580